エポワール国特務警察部隊~第二王子は今日も華麗に事件を解決する〜
八星 こはく
第1話 麗しの第二王子
「今日も俺が美しすぎるな……」
鏡に映る自分の姿を見つめ、シャルルはうっとりと呟いた。
毎日見ているが、いっこうに飽きない美貌だ。
薄紫色の艶やかな長い髪、陶器のように美しい肌、長い睫毛に囲まれた切れ長の赤い瞳。
人形のような美貌を持って生まれたこの男は、シャルル・フェンドル・ド・エポワール。
ここ、エポワール王国の第二王子である。
「まさに、神が作った最高傑作ではないか」
もっと近くで自分の顔を見ようと足を踏み出した瞬間、激しいノックの音が室内に響いた。
こんなノックをする奴なんて、一人しかいない。
それほど急いでいるのならノックなどしなければいいのに、妙に律儀なのだ。
「入っていいぞ、ヒュー」
許可を出すと、すぐに扉が開いた。中へ入ってきたのは、予想通りの男である。
「隊長、事件です!」
「そりゃあそうだろうな。お前がそんなに焦ってるんだから」
「だったら、隊長ももっと焦ってください!」
ヒューはそう怒鳴り、足音を立ててシャルルの前までやってきた。
眼鏡をかけた気真面目そうなこの男は、特務警察部隊の副隊長である。
特務警察部隊とは、第二王子であるシャルルによって設立された部隊だ。第二王子の私兵団……などと陰口を言われることも多いが、ちゃんと仕事はある。
地方の警備隊や中央の治安維持部隊が解決できない厄介かつ面倒な事件を解決すること。それが、特務警察部隊の仕事なのだ。
「で、今日はどんな事件だ?」
事件が起こるのはもはや日常だ。事件が起きたからといっていちいち大騒ぎしていては身体が持たない。
「まったく、貴方という人は。そのような態度をとっていたら、部下にもしめしがつきませんよ」
また、面倒なヒューの説教が始まった。シャルルは手を振って彼の話を終わらせる。
「いいから、早く事件について教えてくれ」
「……分かりました」
不満げな表情を浮かべながらも、ヒューは事件について語り始めた。
「今回問題になっているのは、王都で起こっている、殺人犯連続殺人事件です」
「殺人犯連続殺人事件?」
「ええ。近頃、殺人犯が殺される事件が連続で起こっているんです」
殺されたのは一般人ではなく、殺人犯。しかも一度ではなく連続して、殺人鬼だけが狙われる事件。
特務警察部隊に相応しい、厄介な事件である。
「いち早く解決しなければ大変なことになりますよ」
「そうか? 狙われるのは殺人鬼だけなんだろう?」
「だからです。既に犯人は、一部……特に貧民街では、英雄視され始めているんです」
はあ、とヒューが溜息を吐いた。年のわりにくたびれた顔をしているのは、やたらと溜息が多いからかもしれない。
「英雄視され始めている殺人鬼か。厄介だな」
「ええ。貧民街で起こった事件に関しては、どうしても治安維持部隊の対応は後回しになってしまいます。そんな中、殺人犯を殺す人物が現れたんですよ」
殺したのが罪のない幼児だろうと、悪辣な犯罪者であろうと、罪は罪だ。
しかし、民衆はそうは考えない。
治安維持部隊に代わり、罪を裁いてくれる英雄。ただの殺人鬼のことを、そんな風に思う可能性は十二分にある。
「まだ、犯人は顔や名前を公開していません。ですがもし犯人が英雄として人々の前に立つことを決めたら……考えるだけで、頭が痛いですよ」
確かにヒューの言う通りだ。民衆が熱狂してしまわないうちに、特務警察部隊で犯人を捕らえるべきだろう。
そうすればまた、シャルルに対する名声も高まるはずだ。
「分かった。すぐに動こう。ヒュー、会議室にいつもの二人を集めてくれ」
「はい、すぐに」
ヒューは急いで部屋を出ていった。仕事が早い男だ。すぐに会議室に二人を連れてきてくれるだろう。
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