第39話 因果応報?
用意された部屋に通された私は、それまでの旅用の軽装から黒のドレスに着替えた。
その間ウィリアムとレオルドは部屋の前で待機。エマは甲斐甲斐しく私の着替えを手伝ってくれた。
着替えが終わるのを見計らったように先ほどのメイドが再び部屋を訪れ、食事の用意もすぐに出来るがどうしますかと聞いてきた。
私はそれを丁重に断り、出来るならダウントンに挨拶をしたい旨を伝えた。
ややあって、ダウントンはすでに応接室で私の事を待っているとの返事があり、私たちはメイドの誘導で応接室へと向かった。
すでに待ってたの?
これから食事だ風呂だとか言ってたのに?
暇なんかな?侯爵って……。
「いやあ、急な誘いにも関わらず来てくれて感謝する!」
応接室で迎えてくれたダウントンはそう言うと豪快に笑った。
ここまではとても貴族という印象を受けないけど、この人が本当にダウントン侯爵なんだよね?その辺のおっちゃん連れてきて私を騙してないよね?
「あらためまして、私はアルカディア領領主、リサ=アルカディアと申します。この度は閣下の――」
「ああ!だからそういうのは良いのだ!私はそういう貴族の格式ばったのが嫌いでな!それにリサ嬢はマイヤー閣下のご息女!私に気を遣う必要などないぞ!」
ん?ここでも公爵令嬢パワーが?
それともこの人、リサの父親と親しい仲なの?
「……閣下は父の事をご存じなのですか?」
「ん?フィッツジェラルド公爵の事を知らぬ者など、この王国にはおらんだろう?」
「あ、いえ、そういう意味ではなく――」
「ハハハハ!冗談だ!冗談!リサ嬢のお父上とは旧知の仲でな、元々は閣下のお父上――君のお爺様にあたる先代の公爵閣下にお世話になったのだ。その縁もあって、マイヤー閣下とは若い頃からの知り合いというわけだ!」
先代の公爵――ロックス=フィッツジェラルド。
リサが生まれて少しした頃に亡くなってしまっているが、その人とダウントンが繋がっていた?
それに父親のマイヤーとも親しい仲のようだけど……そんな話はビクトからも聞いていない。
「……そうでございましたか。私は父からその話を聞いておりませんでしたもので」
「それはそうだろう。うちと君の家は派閥が違うからな。個人的な付き合いであっても公にするのは憚られるというものだ」
革新派の筆頭といえるダウントン家と保守派の象徴たるフィッツジェラルド家。確かにその当主同士の仲が良いというのはおかしな話だ。
しかしそうだとしたら納得出来る点もある。
リサがアルカディア領を希望した際、いくら赤字が続いている領地だからといって、仮とはいえ自分の息子に治めさせている領地を簡単に譲ってくれるのは少々おかしい。今の王家の力を考えれば、そんな話を突っぱねていてもおかしくはないんじゃないかな?
でもダウントンがフィッツジェラルド家に対して好感を持っていたのであれば、この流れは有り得ない事ではないのかもしれない。
「では閣下は私の事も前から知っておられたのでしょうか?」
「もちろんだ!君が生まれた時から知っていたぞ!閣下からは親バ――失礼、大変君の事を愛している事が伝わる手紙が何十通と届いていたからな!」
「……身内の恥を晒してしまい申し訳ありません」
あの人そんなキャラだったのか……。
個人的には他人なのに、赤面するくらいの羞恥心が込み上げてきてるよ……。
「なに、それだけ君はお父上に愛されているということだ!かく言う私もそれに感化されて息子を少々甘やかせすぎてしまったがな!」
息子……ああ、あの馬鹿ルイスか。
ん?ということは、元を辿ればルイスがあんな風に育ったのはマイヤーのせいで、父親の蒔いた種を私が回収してるって事?
お父さん、貴方の娘は立派に尻拭いをしておりますよ……。
「ルイス様は立派にアルカディア領を治めておられました」
「いやいや!そのような世辞はいらんよ!あれの能力不足は私も認識している。本来であれば十年もすれば黒字に転換出来るだけの下地のある土地であった。それが毎年赤字を垂れ流し続けて、結果的に後任のリサ嬢には負担をかけさせてしまった。本当にすまないと思っている」
「負担だなんて、私は閣下に預けられていた領地を後から戴いた身でございます。負い目こそあれど謝られるような立場ではございません」
「息子は――私たちは結果を出せなかったのだから当然といえば当然のこと。それが君に代わった途端、一気に回復の兆しを見せているというではないか!これは運命だったのだよ!君がアルカディアを治めるに適任だと天が申しておるのだ!」
一瞬ダウントンの顔から笑みが消えた。
回復の兆しというのは魔石鉱山の事を言っているんだろう。
そしてやはりネルソンから何らかの接触があったのは間違いない。
「過分なお言葉痛み入ります」
「ところでリサ嬢。本来であれば君と会えた事を記念してパーティーでも開きたい気分なのだが、その前に一つどうしても確認しておかなければならないことがある」
それまでの豪快さが消え失せ、落ち着いた雰囲気で話し出すダウントン。
いよいよ本題に入ろうとしているのだ。
「今回君にわざわざ来てもらった本当の理由――いや、君に会いたかったというのは嘘じゃあない。出来れば直接会って君の口から聞きたいことがあったのだ」
「……魔石鉱山の事でございますね」
「そうだ。おそらく君ならばそれを承知でここに来たのだとは思うが、私の質問にいくつか答えてもらえるだろうか?」
「もちろんでございます。閣下の問いに嘘偽りなく答える事をお約束いたします」
「……その言葉を信じよう。まずある者より君に関する良くない話が届いたのだ」
「ある者というのはネルソン子爵でございますね」
「あ、ああそうだ。君には思い当たる節があるようだな」
「子爵とはお会いした事はございませんが、最近ロジェストとは少々関わる事がございましたので」
「関わる事というのは魔石に関する事で間違いないか?」
「はい。間違いございません。魔石の流通価格に関する件でロジェストのスミス会頭とお話させていただきました」
「そうか……スミスか……。成程、ネルソンは代理としてスミスを君のところに向かわせたのだな」
「私はそう解釈いたしております」
「ふむ、そうなると少々順序がおかしくなってくるのか……」
そう独り言ちると、ダウントンは目を閉じて何か考え出した。
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