第二十七話 花冠
翌日、朝から外が賑やかしく、すでに起きていた
「ほら、昨日言ってた退魔師の家族が帰って来たみたい。父上は先に挨拶に行ったよ。俺たちも行ってみる?」
「そうだな。数日世話になる身だし、顔を合わせることもあるだろうから、こちらから挨拶に行くのが正しい」
道士の最終目標は、魔族や怪異と戦い人々を救うことで功徳を得、天界へと飛昇し、不老不死の仙となることだった。だが、誰しもがなれるものではなく、資格と資質を持ち合わせた者のみがそこに辿り着けるという。
退魔師の目的はこの世の魔を祓うこと。それ以上の目的はなく、しかしそれは永遠に終わらない戦いでもあった。
「退魔師、興味ある?」
「じゃあ、いこっか」
椅子から立ち上がり、
昨日顔合わせをした母屋の前で、数人の大人たちが談笑を交わしていた。
「おはよう。この子たちはさっき話していた
「はじめまして、
「
「
明るく元気そうな
そしてその真ん中でこちらを見上げてくる少年は、顔は父親によく似ていたが、表情は母親のように豊かだった。
「お兄さんたち、おじさんの息子さんって本当? 全然似てないね!」
子供の素直な反応に、
「君、面白い子だね。いくつ?」
「六歳! お兄さんは?」
「え? 俺? 俺は十八だよ。ねえ、良かったらこの辺りを案内してくれる?」
「君も一緒に案内してくれる?」
「ごめんね、この子人見知りで。まだ君たちに慣れていないだけだから」
「ふふ。でも
「ち、違うもん! 一緒がいいのは
「じゃあ、
「お兄さんたちも! 早く早くっ」
はいはい、と
******
結界に囲まれた範囲といってもかなりの広さがあり、案内役の
「
「違うよ?
「そうなんだ。ふたりともすごいね」
「ここはね、俺たちの秘密の場所なんだ。父さんも母さんもおじさんたちも知らない場所。お兄さんたちは特別!」
「きれいな場所だけど、すごくあぶない場所でもあるから、気を付けてね?」
その先端はもはや空しかなく、下を覗けば随分と遠い場所に木々が広がっていた。その合間に飛び出た岩肌があり、それを上手く辿れば降りることも可能だろう。普通の人間には難しいかもしれないが、自分たちには不可能ではなさそうだ。
昇る太陽を眺めながら、しばらく時間を忘れて目の前に広がる光景を眺めていた。この感情を誤魔化すために、見ていた。こんな感情、悍ましいだけだ。少なくとも、普通ではない。
ぼんやりと佇んでいると、
「兄さん、そろそろ戻ろう。この子たち、お腹空いたみたい」
ここに来る頃にはすでに夜は明け、陽が昇っていた。今は昼前くらいだろうか。
「えっと、お兄さんのこと、
「ああ、もちろんかまわないよ」
「これ、
後ろに回していた手を前に出し、両手でそっとそれを掴み直す。
花冠を手に微笑む
「····もしかして、めいわく? いらない?」
どうやら盛大に勘違いをしているようだ。
「ああ、ええっと、大丈夫だよ。嬉しすぎてちょっと驚いてるだけだから。ね? そうでしょ兄さん、早く受け取ってあげなよ」
ようやく我に返った
「····すまない。あまりにも綺麗だったから、ぼんやりしていたようだ。もし良かったら、その花冠を私に貰えないかな?」
「はい、どうぞ。おともだちの証です」
言って、手渡された花冠。
その時から、始まっていたのかもしれない。いや、もっと前だ。あの時、白い花畑の中で空を見上げていた儚くも美しい花。その無垢な花は、今もなお、この手の中で清らかに咲いている。
どんなに穢されようとも、あの時のまま。
愛しい無垢な花のまま、確かにここに在るのだ。
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