第二十一話 あの日、魔界で
雲のない青い空。秋晴れの昼下がり。季節も天気も関係のない天窓しかないその部屋の中で、
今日は気分転換に仙薬の研究でもしようかと思い、地下の書庫を漁った後、自分の部屋の本棚から関連の書物を次々に床に積み上げていく。
昨日までは綺麗に整えられていた本棚や床は、この数刻の内に見る影もなくなっている。
資料や書物が散乱した状態がどんどん悪化して動線を塞いでいく。また
本棚の一番高い場所を見上げ、
いつもならあの高さに置いてある書物は
この二年で彼は自分よりずっと背が高くなり、雰囲気も大人っぽくなった。十八歳で自分よりもふたつ下だというのに、並ぶと明らかに彼の方が年上に見られる。
母親は大好きだったが、幼い頃から母親似の中性的な顔立ちが嫌いで、細身なのもきっと悪い。
しかも
だがそれとは別に、上から物申す態度は相変わらずで、生意気で命令口調なのは出会った時から少しも進歩していない。これは自分が彼に『師』と思われていないのが原因だろう。
(まさかとは思いますが、この二年の間、ずっと一緒にいたことで昔のことを思い出した、とか?)
二年前のあの日。
魔族の皇子と名乗った
「その紅蝶は、元々お前のものだ。あの時の出来事を記録している、事件の真相を知る貴重な証拠」
触れたままの指先で気持ちを悟られないように、冷静さを装うのが精一杯だったが、彼は特に気にもしていないようだった。
封印符が剥がされ、鳥籠の扉に手をかける。キィという音と共に開け放たれた扉から、紅く光る紅蝶がひらりと
「どうして、私の許に?」
「言ったろう? それはお前のものだ。あの時、俺がお前から奪った。あのままお前の傍にいたら、あいつに消されていただろうからな」
「そんな記憶、ありません。この紅蝶も、なにも、私の中には存在しません」
「
「····ある者。魔族であるあなたに協力を持ち掛けたその者が、私の両親が殺された事件の首謀者ということですね」
そしてここにいる
それは母が残した印であり、執念のようにも思える。父やあの時駆け付けてくれたひとたちを殺したのも、彼なのだろうか?
「魔草を使って実験的にお前の記憶を改変させるきっかけを作った俺を、恨むか?だが賢いお前ならわかるだろう?俺を殺せばお前も瘴気で死ぬ。そうなれば真実は隠されたまま、表に出ることはない。俺にとってお前は、愛しい実験体。実験体が主である俺を殺すことなどできない」
「取引をしませんか?」
紅蝶を見つめたまま、
「あなたが欲しいものはなんですか?望みはありますか? それを与える代わりに、ひとつ、私の
「お前の望みとは?」
「私の望みはひとつだけ。私が失ったと思われる記憶を取り戻すこと。あなたの魔草の研究資料をください。あとは自分でなんとかします」
魔草の研究資料を渡すということは、
しかしそれを知ってか知らずか、
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