第十五話 悲劇の幕開け
月明かりに照らされふたりの前に姿を現したのは、虚ろな濁った眼球で視点が定まっていない生気の抜けた者たち。群れと呼んでも間違いない数の
(この数、まさか、いえ····そんな不道徳なこと、)
しない、という保障はないだろう。魔族の皇子と名乗った
(魔族の女に誘導された時にも、
そこまで考えて、
「どうやって、どうして、と考えるのは無駄です。こうなってしまったのは、間違いなくこの村で起きたことを
そして自分たちは雨のせいもあって、昨日から宿屋の老人と孫の
「最初から、実験体である彼らを私たちに"処分"させるまでが、彼の計画だったのでしょうね」
彼、と
魔界の瘴気はひとには猛毒だと魔族の女は言った。それを回避する術は、魔蟲を呑むか魔族に触れ続けること。手を繋いだり、抱き上げてもらったり、方法は様々だろう。
だが魔蟲を呑まされたわけでもなさそうで、影響を受けていないことを考えると、つまりはそういうことで····なんだかもやもやした。
「
「偶然、ではないのだろうな。そして目の前の
魔族がどのような能力を持ち、どこまで人界に干渉できるのかは知らないが、魔力を使って限られた範囲で雨を集中して降らせるくらい、容易なのかもしれない。
村人全員を
退魔師の能力を使うことも考えたが、
「
村中に
「わかった。こちらは俺がなんとかする。あなたも気を付けて」
「はい。必ず戻りますから、あなたも無理をしないように」
わかってる、と少し不服そうに
それを知ってか知らずか、
魔界から戻って来てから、そういう笑みを見せるようになった
あんな風に微笑む口元に、懐かしささえ覚える。錯覚だとわかっていても、重ねてしまう。期待してしまう。顔も思い出せない、夢の中でしか逢えないあの少女との物語の続きを。
宿の方へと駆けて行く姿を途中まで見守り、再び腐臭と低い呻き声で現実に戻される。なんの前触れもなく襲ってきた一体の
「これで、出し惜しみする必要もない」
押し寄せるように向ってくる
わらわらとどこからか湧いて来る
「紅き浄化の炎で、大地へ還す」
紅蝶が
やがて耳を塞ぎたくなるような呻き声がいくつも重なり、浄化の炎の中で苦しみ、地面に転がり踊っているかのように藻掻くその姿は、まるで地獄絵図だった。
「こんなこと、赦していいはずがないし、あんたたちも、俺を赦さなくていい。だがせめて····憐れな者たちに、安らかな眠りを」
言葉など通じないし、そんな感情さえ彼らはもう持ち合わせてはいない。けれどもこんな理不尽な目に遭い、自我さえも失った憐れな存在に、慰めの言葉くらい手向けても良いだろう。
集まっていた十数人ほどの
屋根から飛び降り地面に着地すると、刀剣を握り締め、
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