第五話 嫌いなんです
手続きを済ませ、二階の一番奥の部屋へと案内される間、
「お嬢さんとお兄さんの瞳の色、すごく珍しいですよね。どこから来たんですか?」
「····ここからずっと遠い場所」
「俺、今までこの村から出たことがないから、旅とか羨ましいです」
久々の客人というのもあるだろうが、ふたりに対しての興味が尽きないようだ。
階段を上り終え部屋に辿り着くと、
部屋はふたり部屋で、案外広かった。奥に簡易的な寝台がふたつあり、椅子と丸い机、衝立が置いてあるだけの部屋だったが、飾られている小物や提灯は店主のこだわりが見られた。
「外を散策するのは難しいかもな」
こんな雨の中、村の人間ではないよそ者が歩き回っていれば不信感を与えるだろう。しかし今はそんなことよりも、
「それにしても····"お嬢さん"って。子供って素直で面白いな」
「そんなに私に破門されたいんですか?」
「なんで怒ってるんだ?」
それくらい彼の第一印象、つまり外見だけで判断すると、五人に三人は迷うことなく女性と思い込むだろう。ちなみに残りの二人は、「もしかしたら····」くらいの気持ちで男性と答えるかもしれないという低い確率だ。
初めて彼を見た時、
実際の彼は、あの書物だらけの埃臭くて散らかった部屋に、一日中平気で籠っていられるような変わったひとだった。
「私はこの顔が嫌いなんです」
「なぜ? せっかく綺麗な顔に生まれたのに、もったいな········、」
言葉が途切れ、急に真剣な顔つきになって自分を見下ろしてくる
「
見上げてくる
曖昧な記憶。
あの不思議な夢も。
雨の音に搔き消されて、なにもなかったかのように失せてしまうのだ。
******
ひらひら。
ゆらゆら。
「どうしたの? なにかあった?」
顔が黒い霧にでも覆われているかのようにはっきりとは見えず、肩にかかるくらいの長さの柔らかそうな茶色の髪の毛と、表情豊かな口元だけが夢の中の少女の特徴だった。いつもと違う夢なのに、不思議とこの先の会話に覚えがあった。
「私、この顔嫌い」
「どうして? すごく可愛いのに」
褒めたつもりなのに、少女はむぅと頬を膨らませて無言で訴えてくる。どうやら彼女の地雷を踏んでしまったようだ。普通なら嬉しいはずなのに、なぜか少女は「なんでそんなこと言うの?」と声が震えていて、今にも泣き出しそうだった。
「そんなこと言う
大っ嫌い! と言われたこともさることながら、自分が良かれと思って言った言葉で少女を泣かせてしまった事実に対してものすごく落ち込み、彼女が走ってどこかへ行ってしまうのをただ見ている事しかできなかった。
紅蝶が彼女を追って行ったのでどこへ行こうと見失うことはないが、どうやってもしばらく立ち直れそうにない。
夢はそこで途切れ、いつものように目が覚める。
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