TS猫耳Vtuberの日常

黒寝 こはく

バレンタインなんて・・・

2月14日。今日は町のどこに行っても甘い匂いが漂ってくる日。


例外があるとすれば、俺の部屋だけだろう。


「なァーーにが、バレンタインじゃ!」


みんな浮かれやがって!どーせ、企業の考えた販売戦略だっていうのにさ!!

どこに行ってもチョコ!ネット見てもチョコ!頭の中がチョコまみれ!!


「・・・みんな虫歯になればいいんだ」


やれ本命チョコだ、義理チョコだ、挙句には友チョコなどと言ってるやつは、全員虫歯になればいいんだ。

まあ?俺だってチョコは嫌いじゃないけど?なんなら好きな部類ではあるけど?


「浮かれ・・・ッ!浮かれやがって!チクショーーー!」


毎年そうだ!1月頃から女子に優しくしてたのに、お徳用のチョコしかもらったことがないっ!


そりゃあね?母さんと幼馴染の遥からは貰えるよ?

でも、そんなのほぼノーカンじゃん?かれこれ10年近く貰い続けてるんだし。


しかも数年前、遥から胸焼けするほどの大量の試作チョコを貰ったことがあった。

シンプルなチョコにクッキーから、マフィンにアイス・・・思い出しただけでゲンナリする。


「おっはよーこはく!ハッピーバレンタイン!」


「うわでた」


噂をすれば、チョコ量産機遥が無駄に元気よく扉を開けてやってきた。

遥も例外なく甘いチョコの匂いを纏っている。


「何その反応。ちょっと傷ついちゃったなー」


「へいへい」


「むっ、そんな態度のこはくには、チョコあげませーん」


「あッ、うそですごめんなさい」


「えーー?どうしよっかなー?」


「チョコください!!お願いします!!」


頭を床に擦り付けてでも欲しいッ!母親からしかチョコ貰えなかったヤツらにマウント取るためにも、やっぱりチョコ欲しいです!!!


「そんなに必死にならなくても・・・はい、こはく。ハッピーバレンタイン」


「ありがとうございます遥さま」


綺麗にラッピングされた、女子の手作りチョコ。

どーせ、遥の友達にも配る物の1個なんだろうけど、それでも手作りチョコには変わりない。どうだお前ら!羨ましいだろ!!!


「・・・一応聞くけど、チョコはこれだけだよね?」


「毎年聞かれてるけど、もうあんな大量に作ったりしないってば」


しょうがない。あの年は地獄を見たんだから。

しかも、1個1個感想を求めてきたけど全部チョコの味しかしなかったし。


「それで・・・今年はトリュフチョコか」


「結構いい感じでしょ?自信作なんだよ」


茶色や白、緑色の丸いチョコが、キャンディのように1個ずつ包んであって可愛らしい。


「そいじゃ早速、いっただっきまーす」


「その前に・・・はい」


遥が俺に向かって手を差し出す。


なんだこの手は???パーにした手の上には何もないし・・・うーーん?


「じゃあ・・・チョキ?」


「そういうことじゃなくて!」


じゃんけんじゃないのか・・・となると、なんなんだその手は。あ!もしかして・・・


「ほい」


「・・・・・・」


正解は『お手』だろ!バレンタインチョコのためならしょうがない。今だけ犬ごっこに付き合ってあげようじゃないか。


「んーーー、こはくちゃんはかわいいねー」


「あ、こら!撫でるのまでは許可してない!」


「ごめんごめん。こはくちゃんが可愛いから、つい」


「つい、じゃないんだが?あと、女の子扱いすんな!」


「こはくを撫でるのもいいんだけど・・・そろそろ私もほしいなー、なんて」


「ん?ほしいって、何を?」


「え?」


「え?」


バレンタインは女性方がチョコを渡すイベントじゃないの?

お返しを渡すのは、1ヶ月後のホワイトデーでしょ?


「まさかこはく・・・バレンタインなのに何も用意してないの?」


「そうだけど・・・?」


「えーー!こはくが何をくれるか楽しみにしてたのに!」


体はともかく、中身は男なんだけど。


つまり遥は、男の俺からバレンタインのチョコをねだっていることになる。

チョコ食べ過ぎて頭がどうにかしちゃったのか?


「ホワイトデーでちゃんとお返しするから、べつによくない?」


「はあぁ・・・こはくに女の子の自覚が足りないって思ってたけど、ここまでなんて」


「女の子の自覚とかないが?」


「こはく、しばらく時間あるよね?」


「まぁ・・・あるっちゃあるけど」


言うが早いか、次の瞬間には遥に抱き上げられて俺の体は宙に浮いていた。


「ちょ!HA☆NA☆SE!」


「はいはい。暴れたら危ないからねー」


「いいから――『ガッ!』ひぐぅ」


足が・・・俺の足がぁ・・・

金属製のドアノブに、思いっきりぶつけたぁ・・・・いたぃ、足の指とれりゅ・・・





――――――――――





「・・・それで?なんで俺は遥の家のキッチンにいるわけ?」


足の指が取れないよう必死に押さえてる間に、遥の家まで誘拐された。悪魔め。

そしてキッチンに軟禁された挙句、無理やり子供用のエプロンまで着せられた。


ちなみに足がかなり痛かったけど泣いてない。男の子だから。ちょっとジワっときたけど、泣いてなんかない。


「それじゃあ、一緒にチョコ作ろっか」


「なんて?」


「だから、私が手伝ってあげるから、バレンタインのチョコ作ろう?」


「いや、詳しい説明を求めたんじゃなくて」


俺が聞きたいのは、なんで男の俺がバレンタインチョコを作らなきゃいけないのか、ってことだよ。


「だって、こはくは女の子でしょ?」


「違う」


「バレンタインは女の子がチョコを渡すイベントなんだよ?」


「俺は男なんだけど」


「ふーーん・・・じゃあ、こはくにあげたチョコ、返してもらうね」


遥の手が、懐からチョコの包みを奪い取る。

慌てて取り返そうとしても、頭上に掲げられてジャンプしても届かない。


「返せ!ふんッ!俺の!ふんす!チョコ!」


「チョコがほしいなら、交換ね」


くッ・・・人質とは卑怯な!この鬼!悪魔!遥!


いやでも待てよ?自分用に多めにチョコ作れば、実質もう1人からチョコ貰ったことになるのでは?母親、幼馴染、そしてTS美少女(俺)!3人からチョコ貰えるぞ!!!


「しょーがないなー遥は。そこまで言うんだったら?作ってやってもいいかなァ?」


「・・・何か企んでない?」


「いやー、べっつにー?俺はただ、可愛い幼馴染にチョコ作ってあげたいだけですけどー?」


「まあ、いいけど・・・それじゃあ、作ろっか」




こはくと!遥の!〇分クッキング! バレンタインVer.


「作るのはいいけど、具体的に何作るの?俺チョコなんて作ったことないよ?」


「それなら大丈夫。初心者でも簡単に作れるレシピはいっぱいあるから」



誰でもかんたん!おいしい生チョコ!


・材料


余りのチョコ   残り全部


生クリーム    適量


バター      少々


ココアパウダー  お好みで



「って、全部遥が使った余りじゃん!」


「ちょっと残っちゃって、どうしようかなーって思ってたんだよね」



1.チョコを溶かして、生クリームとバターと混ぜ合わせる



「ひぃん、ひぃん、何気に重労働なんだけど」


「はいはい。こはくは男なんだから、もうちょっとがんばって」


「ひぇーー・・・」



2.混ぜ終わったら、型に入れて冷蔵庫で冷やし固める



「む、指にチョコが・・・んむ、ウマウマ」


「ちょっとこはく!つまみ食いしすぎ!」



3.固まったら型から出して、ココアパウダーをまぶす



「やーっと固まったか」


「確かにここが一番長いかもね」



4.一口大に切り、箱に詰めて完成




「ついに完成!」


俺の作った生チョコが入った、手のひらサイズの小さな箱。

頑張って作った分、箱が重く感じる。


「こはく、お疲れさま」


まあ確かに?思ってたよりか簡単にできたけど、それでもちょっと疲れた。

慣れないことはするもんじゃないね。


「改めて・・・こはく、ハッピーバレンタイン!」


「う、うん・・・遥もハッピー、バレンタイン・・・」


遥に倣って手に持っていた箱を差し出す。

なんかコレ、めっちゃハズいな。世の女子たちはみんなコレやってるのか。


「もしかして、照れてる?」


「うるさいっ!」


「あっ、そうだ」


まるで名案でも浮かんできたかのように、ぱあぁっと遥の顔が明るくなる。

経験から言うと、こういう時は大体ロクなことにならない。


「せっかくだから・・・はい、あーーん」


俺に向かって差し出していたチョコの包みを引っ込めて、代わりに1口サイズのトリュフチョコをつまんだ指が眼前にくる。


「・・・べつに自分で食べられるし」


「えーーー?せっかくの機会なんだし、いいじゃーん」


「よくないっ!その・・・こっ、恋人?でもないのにあーんはしない!」


「女同士ならこれくらい普通だよ?ほら、あーーん」


くッ、やけに食い下がるな。

しょうがない・・・あーんくらいなら300歩譲ってギリやってもいい、かな?

これくらい普通・・・らしいし?


「あ、あーーー・・・」


覚悟を決めて、大きく口を開ける。

今更ながら少し気恥ずかしくなってきて、ぎゅっと目を瞑って口にチョコを入れられるのを待つ。


「・・・・・・」『パシャッ!』


「あ、こら!写真撮るな!」


「記念に1枚だけだから!それに、これも女同士なら普通だって」


「・・・もういいから、さっさと食べさせろ!」


「はーい」


もう一度口を開けて待機する。

今回は目を閉じない。ちゃんと遥を見張っていないと、また何をされるかものじゃない。


「あーー・・・んむ、んぐんぐ」


「どう?おいしい?」


「まあうん・・・おいしいんじゃない?」


「もー、素直じゃないんだからこはくは」


「うっさい」


あーんに付き合ってあげたんだから文句言うな。

にしてもなんか、やられっぱなしみたいで癪に障る。ここらで一つやり返してやらないと・・・


「あ!」


「どうしたのこはく?」


やっぱり俺は天才かもしれん。

思いついたぜ。遥を思い知らせてやる、たった一つの冴えた方法をなァ!!


早速、出来立てのチョコが入った箱を開けて、1個つまんで差し出す。


「ほい遥、あーーん」


「え・・・えぇ!?私も?」


「仕返し・・・じゃなかった、お返しだよ。あーーーん」


それにほら、女同士なら普通なんだろぉ!?

オラッ食らえ!そして俺と同じくらい照れるがいいわ!


「ほら早く!あと、手届かないからもうちょい屈んで!」


「う、うん・・・あーー」


髪をかき上げて、口の中が見せつけるように開く遥。

少し強張った様子の舌に、紅色の粘膜が唾液にまみれて妖しく光る。


「ゴクリ・・・」


「・・・こはく、何か変なこと考えてるでしょ」


「し、してない!いいから口開けてて!」


生チョコを遥の口にシュゥゥゥーッ!!超!エキサイティン!!


「どーだ!美味いだろ!」


「そ、そうだね・・・」


「うぇーーーいwww顔真っ赤になってやんのーーwww」


見ろ!この遥の顔!誤魔化せないくらい耳まで真っ赤になってるぞ!

あれあれあれ?さっきまで寒いとこ居たのかな?ずっと俺と一緒にチョコ作ってたような気もするゾォ~~?^^


「だって・・・本当にこはくがあーんしてくれるなんて、思ってなかったから・・・」


「お、おい!ガチ照れすんな!なんかこっちまで恥ずかしくなってくるじゃん!」





――――――――――





「ふぃぃ・・・つっかれた」


ガチ照れしてポンコツになった遥を元に戻すのは諦めて、チョコを持って俺の部屋に戻ってきた。

たまーに遥は壊れるからな。ま、1日放置すれば直ってるからいいけど。


「そういえば」


自作のチョコが入った箱を持って、鏡の前に立つ。

身なりを軽く整えて、1つ咳払い。


「・・・えっとコレ、受け取ってくださいっ!」


なんか違うな。


「べ、べつにアンタのために作ったわけじゃないんだから!」


イマイチだな。


「せーんぱい!可愛い後輩ちゃんからの、チョコですよー!」


なんだこれ。


「はぁぁぁ・・・虚しい。全てが虚しい」


やめよう。こんなことしても、なんの意味もない。


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