宇宙で一番素晴らしい顔

不労つぴ

宇宙で一番素晴らしい顔

 とある日、男は予約していたクリニックに向かった。

 男は小さい時から自分の顔がコンプレックスで、いつか人気俳優のような、誰もから羨ましがられる顔になりたいと思っていた。


 いや、人気俳優ごときでは足りない……俺はこの宇宙で一番の顔を手に入れるのだ。

 男はそう意気込んでいた。


 男が向かったクリニックには、低価格でどんな顔にでもしてくれるとの噂があった。

 そのクリニックは今にも崩れそうな古びたビルの一室にあり、男はもっと綺麗な場所を想像していたので、想像と現実のギャップにたいそう驚いた。


 薄汚れたエレベーターに乗り、目的のフロアを目指す。

 目的のフロアに着き、クリニックの扉を開けると外装に反して中は意外と綺麗だった。


「スズキ様、ようこそおいでくださいました」


 部屋の奥から、クリニックのスタッフらしき人物が男を出迎える。しかし、男はスタッフの容姿を奇妙に感じた。


 出迎えたスタッフは白衣の上から茶色の紙袋を被っており、さらに声も機械音声のような無機質な声で、とても人の温かみを感じられるような声ではなかったからだ。


「さぁさ、奥へどうぞ」


 男はスタッフに案内されるまま、部屋の奥に向かう。


 部屋の奥には椅子に座った、これまた白衣の上に茶封筒を被ったような男が座っていた。目の前の男がスタッフと違うのは、紙袋の上から油性ペンで描かれたのであろう眼鏡のイラストがあることだった。


「スズキ様ですね、ようこそ来ていただきました。私は当クリニックの院長を務めております、モニタです。どうかよろしくお願いします」


 そう言うと、モニタ院長は男に深々とお辞儀をした。


 モニタ院長の声もスタッフ同様に、無機質でロボットのような声だった。


「それで、スズキ様は一体どのような顔にしたいのですか?」


「僕は宇宙一かっこいい顔になりたいのです」


 男は迷うこと無くそう言い切った。そんな突拍子もないことを言われたのにも関わらず、モニタ院長は平然と「分かりました」と対応した。


「では、手術室に案内します。着いてきてください」














 ◇ ◇ ◇


「スズキ様、手術はたった今終わりました。少々時間がかかりましたが、無事に施術は完了しましたよ」


 男は麻酔をかけられ、いつの間にか眠っていた。


 一体自分はどんな顔になったのだろう。

 男は興奮冷めやらぬ様子でモニタ院長に手渡された手鏡を使い自分の顔を見る。


「さぁ、新しくなった顔をご覧ください。これが宇宙一素晴らしいお顔ですよ」


 鏡に映ったのは以前までの男の顔ではなかった。


 いや、それは人間ですらなかった。


 男は悲鳴を上げながら手術台から崩れ落ちてしまった

 鏡に映った男の顔は、まるで深海魚のようなおぞましい顔になっていた。


 男が顔を触ると、粘り気のある液体が手に付着していた。

 肌もまるで魚の鱗のようなガサガサとした質感で、明らかに人間の皮膚ではなかった。


「私どもが考える宇宙一素晴らしいお顔というのは銀河大帝ギガントキプリス様です。なので、スズキ様のお顔も同じようにさせていただきました」


 スタッフが額縁に入った写真を持って来る。

 その写真の人物は今の男と全く同じ顔であった。


「私どももギガントキプリス様を尊敬いたしておりまして――だからにしたのですよ」


 スタッフとモニタ院長は紙袋を外す。

 すると、そこには自分と全く同じ深海魚の顔があった。

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宇宙で一番素晴らしい顔 不労つぴ @huroutsupi666

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