第17話 充電池

「あ、あった……あったぞ!」


(……!)


 アイシャは何やらリンゴくらいの大きさの球体状の物体を手に持って、ユキのところに戻ってくる。


「えーと……これは?」


 ユキは尋ねる。


「これはな、少し特殊な魔石でな」


「はい……」


「人間が魔力を込めることで、この魔石に魔素を溜めることができる」


「おぉー、なるほどです」


(充電池みたいな感じか)


「というわけで、私がこの魔石に魔力を入れてみようと思う」


「はい……」


「うむ……ではいくぞ」


 そう言うと、アイシャは軽く目をつむる。

 そして……


(……っっっ!!)


 その瞬間、ユキは本能的に寒気を催す。

 アイシャはただ魔石に魔力を込めているだけであるのに、凄まじい威圧感で空気が震えているような感覚に陥る。


「……こんなものかな」


 アイシャは作業を終える。


「ユキ……どうぞ」


 アイシャは魔力を込めた魔石をユキに渡す。


(……)


 重い……わけではないのだろうが、ユキはなぜかそう感じる。


「まぁ、どれ程の違いがあるのかはわからないが、試しにこれを使ってみてくれ」


「ありがとうございます……!」


「うむ……」


(それじゃあ、早速……)


 ユキはアイシャから受け取ったアイシャ魔石による検証を開始しようとする。


(…………!)


 と、隣りでアイシャも興味深げにその様子を観察している。


「あ、えーと……」


「ん……?」


(もしやアイシャ様……ずっと見てるつもりじゃ……)


 アイシャは不思議そうにユキの顔を見る。


(昨日もアイシャ様に、いつの間にか研究開発室ここで一夜を明かさせちゃったし……流石に、二夜連続はいろいろとまずい気が……。今朝みたいに、アイシャ様の秘書の人……スパ・ゲッティコードさんに何か言われるのも正直、ちょっと嫌だなぁ……)


「……アイシャ様」


「ん……? どうかしたか」


「今日のところはこの辺にしておこうかと思います」


「お、そうか。わかった」


「はい」


 そうして、ユキはその日の作業を終える。


 研究開発室に施錠をして、部屋を出る。


 夜であるので、当たり前ではあるが、外はすっかり暗くなっている。


「あ、えーと……アイシャ様……帰宅はお一人で大丈夫ですか?」


「はい……?」


「いや……えーと、女性一人でこんな遅くに帰るのは危険なんじゃないかと……」


(って、この人、氷の魔女とか呼ばれてるみたいだし、貴族で生徒会長、加えてさっき見せつけられたとんでもない魔力……どう考えても只者じゃない人みたいだから、そんな心配は必要ないのかな……あ……むしろ失礼に当たってたりして……やばいかな……)


「あ……ありがとう……それじゃあ、途中までお願いしようかな」


「え……? あ、はい……」


 自分で提案しておいて、断られなかったので、少し意外に思ってしまうユキであった。


 道中……二人はうす暗い夜道を歩く。

 こちらの世界にも街灯はあるが、前世の電力を用いたものに比べれば慎ましいものだ。


 歩いていると、アイシャが話しかけてくる。


「あ、そうだ。用務の仕事については、明日も非番とさせてもらってもいいだろうか?」


「え……?」


「事前に伝えられていなくてすまない。昨日は徹夜をしていたようだったから、急遽、そのようにさせてもらっていたのだ。今日は徹夜というわけではないのだが、できればこちらの作業を優先してもらいたくて……」


(ラッキーだと思ったら、アイシャ様が根回ししてくれていたのか……。というか貴族って学生の身分でそんなこともできるのか……。すげぇな……。まぁ、でも実際、俺も今はこっちの作業の方が気になってはいるし……)


「はい……承知しました。お気遣い、ありがとうございます」


「いやいや、こちらの都合だ。礼には及ばない」


「では、明日は午前から作業を開始してもよろしいでしょうか」


「あ、あぁ……それはこちらとしてもありがたい話だ……午前は学園内は授業中ではあるのだが、研究開発室は使用できるよう手配しておく」


「お手数おかけします……あ、そういえば……」


「ん? どうした?」


「今の作業状況については、まだアイシャ様と自分だけに、とどめておいた方がいいのでしょうか?」


「そうだな…………オーエスとソレハになら話してくれて構わない。ただ、二人から外部に漏れないようにはこちらから伝えておく」


「わかりました。ありがとうございます」


「うむ」


 などと話しているうちに……


「ユキ、ありがとう。ここまでで大丈夫だ」


「あ、はい……」


「それじゃあ、ユキ、おやすみ。また明日」


「はい、アイシャ様、失礼いたします」


 そうして、ユキとアイシャは別れる。


(…………また明日……か)


 昨日、出会ったばかりの(多分)お偉いさんの貴族令嬢様にそんなことを言われ、なんだか不思議な気分になるユキであった。

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