第16話 ブラックボックス

「ユキ、今日もか……?」


(……!?)


 研究開発室に透明感のある声が響く。

 ユキが振り返ると、えんじ色のブレザー姿、透き通るような白銀の髪で、青い瞳の少女がいた。

 それはアイシャであった。(二夜連続、二回目)


「……アイシャ様……えーと……こんばんは……」


 ユキは少々、元気なく、アイシャに挨拶する。


「もしやと思って来てみれば……まさか二日連続、こんな遅くまで作業しているとはな……」


 アイシャがそんな風にユキを心配するが、ユキは少し違和感があった。

 なぜなら……


「……そういうアイシャ様だって、こんな遅くまで、何かされていたのでしょう?」


 自分アイシャだって遅くまで学園にいるのに、自分ユキが心配されるのは少し変な話だ……とユキは思ったのだ。


「…………まぁ、それはそれだ」


 アイシャは〝遅くまで何かしている〟という部分は否定しなかった。


「ところで……ユキ、少し元気がないようにも見えるが、調子はどうなのだ?」


「えぇ……どうにも上手くいかないことがありまして……」


「そうか……私で力になれるかはわからないが、状況を教えてはもらえないだろうか」


「はい……承知しました」


「魔石で魔法補助具を自動実行させたのですが、どうにも冷却の強さと稼働時間の長期化を両立することが難しく……」


「ん? んんん!?」


(……?)


 ユキが直面している課題について説明すると、アイシャは何やら奇妙な顔をしている。


「ユキ……今、なんて言った?」


「ですから、冷却の強さと稼働時間の長期化の両立が困難で行き詰って……」


「いや、そっちじゃない。その前……!」


「はい? 魔石で魔法補助具を自動実行……」


「っっっ!?」


 アイシャはめちゃくちゃ目を見開いている。


「いやいやいや、そんなまさか……そんなにうまくいくわけ……」


(……?)


「…………本当なのか?」


「え? はい……このように……」


 ユキは魔法補助具に魔石をくくり付けて、手を放して見せる。


 魔法補助具からは自動で一定間隔で冷気が放出される。


「………………ユキ……」


「はい……?」


「これはとんでもないことだぞ……!!」


「え……?」


「すごい……! すごすぎる! すごすぎて、すごいとしか言えないくらいすごい!」


「っっっ!?」


 アイシャが興奮するように、褒め称えてくれるものだから、ユキはようやく自分がしたことが、この世界における技術革新……ブレークスルーをもたらす程の成果であるということに気付き始める。


「ユキ……! これは一体、なにがどうやったら、こんなことが可能なのだ?」


「え? えーと……」


 ユキはアイシャに、

 ・実行エグゼなしで、魔法が実行されるように変更したこと。

 ・10秒に一回発動するように変更したこと。

 ・魔石をくっつけてみたら、すんなり上手くいったこと。

 を説明する。


「まさか……君の魔法論理マジック・ロジックの改変は、表面的な部分だけでなく、魔法補助具の中核となる部分まで可能なのか……?」


「あ、えーと……簡単にとはいかないのですが、改変できる部分もあるみたいです。自分でも今回、初めて挑戦してみて気付いたのですが……」


「なるほど……改めて、君はすごいよ……」


「あ、ありがとうございます……そう仰っていただけると嬉しいです。ですが……」


「あー、そうだったな。えーと、冷却の強さと稼働時間の長期化の両立が困難……だったかな?」


「はい」


「まずはえーと……単純にもっと大容量の魔石があれば助けになるだろうか?」


「あ、はい……そこは間違いないです。大容量の魔石があれば、確実に稼働時間は伸びると思います」


「そうか……少し待っていてもらっていいか?」


 アイシャはそう言うと、研究開発室の中を物色し始める。


 と……


「うーむ……どこにしまったかな……」


 アイシャは探し物の収納場所をうろ覚えだったのか、至る所を探している。


「あ、えーと、自分も探しましょうか」


「いや、気持ちは嬉しいのだが、何を探しているのかわからぬと、見つかっても気づけないのだから、どうしようもないだろう?」


(……確かに)


 アイシャは引き続き、物色を続ける。


 しかし、探し物は、なかなか見つからない。


「ぐぬぬ……どこだ……」


 アイシャは次第に探すことに夢中になり……


(っっ……!)


 低い位置にある引き出しを確認する際に、四つん這いになっている。


 すごく短いというわけではないのだが、長くもない制服のプリーツスカートが、かなり際どい感じになってしまい、ユキは思わず目を逸らす。


(こ、これは平民が決して興味を持ってはいけない禁忌……スカートの中ブラックボックスだ……)


 と……


「あ、あった……あったぞ!」


(……!)


 アイシャは何やらリンゴくらいの大きさの球体状の物体を手に持って、ユキのところに戻ってくる。

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