第8話 丸投げ
「ユキくん、ここだ」
「はい……」
(どうしてこうなった……?)
ユキはアイシャの頼みを受け、アイシャと共に、学園内のとある施設を訪れていた。
今は、ちょうどその施設の扉の前で立っている。
「さぁ、入りたまえ」
アイシャとともに施設に足を踏み入れる。
(おぉーー、ここは……! ここはどこだ?)
ユキにはさっぱりわからなかった。
内部はわりと雑然としており、色々な道具や工具のようなものが置いてあった。人も二人ほどおり、制服を着た男女だ。
それぞれ道具とにらめっこしながら、作業していたが、アイシャがユキを連れて入ってくると、流石にそちらに目を向ける。
「オーエス、ソレハ! 聞いてくれ! 新人だ」
アイシャが作業をしていた二人に声を掛ける。
オーエスとソレハと呼ばれた男女は、意味ありげに顔を見合わせる。
そして……
「アイシャ様、その方は……今度はどこで拾ってきたのですか?」
オーエスと呼ばれた男子生徒が訝しげな目をアイシャに向ける。
「彼はユキ・リバイスくんという。どうやらこの王立学園高等部で用務員として働いているようだ」
「用務員……!? まさか学生ですらないのー!?」
今度はソレハと呼ばれた女子生徒が驚く。
「そんな彼に、〝食糧を冷やす装置〟を作ってもらうことにした」
「「!?」」
アイシャの宣言に、オーエスとソレハの二人は豆鉄砲をくらったような顔をする。
◇
アイシャは去り、施設に残されたユキ……。
(え? いきなり放置……?)
どうやらこの施設はアイシャ直属の〝研究開発室〟なる部屋らしい。
そこにいる二人のうちの一人、男子生徒のオーエス・フリーは明るい髪のくせっ毛なのだが、少々、疲れたような、やつれた雰囲気のある人物だ。
もう一人いる女子生徒、ソレハ・ショーデスはややパーマの掛かったボブスタイル。整った顔立ちではあるのだが、半眼気味でどうにも眠そうな顔をしている。
(……言い方は悪いけど、二人とも、少し……怖い……)
オーエスとソレハは二人ともちょっと目つきが悪かった。
(でも王立学園にいるってことは、きっとどこかの貴族か、エリートなんだろうな……)
そんな二人は、アイシャにより置き去りにされた哀れな用務員を凝視している。
(……え、えーと……)
ユキはどうしたらいいのか分からなくなる。
と……
オーエスがぽつりとつぶやく。
「……かわいそうに……」
(え……?)
「本当にねー……この純粋そうな子がアイシャ様の次の
ソレハもオーエスに同調し、なんなら目頭にほんのりと涙を浮かべている。
ソレハは少し語尾を伸ばす様な緩い話し方をするようだ。
(え……? そんな泣かれる程、やばい状況なのか……?)
「ユキくん……だったかな? 何か困ったことがあれば、聞いてくれ」
オーエスは表情を作るのが苦手なのかやつれたような表情のままであったが、思いのほかユキに優しい言葉をかけてくれる。
「あ、はい。で、であれば是非……この研究開発室が何をしているところなのか、教えてもらえないでしょうか」
「「……」」
ユキが根本的なことを尋ねると、オーエスとソレハは顔を見合わせる。
「ひょっとしてだけどー、ユキくん、アイシャ様から何も説明受けてないー?」
ソレハが尋ねる。
「はい、〝食糧を冷やす装置〟と作ってくれとしか」
「「……!!」」
(えーと……)
「いやいやいや、あの人、いくらなんでも雑すぎないか!?」
オーエスは憤慨する。
(前世でもよくある話ではあるのだが……それは〝THE丸投げ〟であった)
「ってか、君もよくそれでOK出したね?」
「いや、なんか位の高い方なのかなと……自分、平民ですし、断ったら、ただじゃすまないなと……」
「っ……! なるほど……まぁ、確かに位についてはそうなんだけど……いやいや、まぁ、断ってもきっと大丈夫…………かなぁ……」
(最後、ちょっと自信なくなってるじゃないか……)
「まぁ、オーエス……それ以上、言っても仕方ないよー。アイシャ様の無茶ぶりはいつものことじゃないかー」
「……そうだな」
「なにはともあれー、アイシャ様直属の〝研究開発室〟へようこそー!」
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