才能なしの魔法プログラマは穏やか学園ライフを送りたい ~読むだけでゲームプログラミング学習!(誇大広告)~
広路なゆる
第1話 Hello, world!
新連載です。よろしくお願いします。
しばらくは毎日、2話更新。
文庫一冊分ほど、きりの良いところまでは書き溜めてるので、そこまでは必ず。
プログラムが出てくるのは3話から。プログラムが出てくる回はタイトルに★をつけます。
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「お、ここだ……! 単純ミスじゃねえか……だーから変数のスコープは無理に広げるなって言ってるのによ」
吉田ユキ(35)は問題となっていたシステムのプログラミング内にバグを発見した。
その時であった。
「う゛……!」
ユキの身体に激痛が走る。
吉田ユキ(35)は残業中に血管系の病気が発症。
周りに誰もおらず、翌朝、冷たくなっているところを発見される。
ユキは本業はシステム系のプログラマーで、業務外では趣味のシューティングゲームを作るプログラマーであり、実力はともかくとして、プログラミングが好きであった。
本業もトラブルシューティングが主な業務であり、プログラムの問題を解析し、バグを取り除くことがユキの
そんなユキは大変ながらも結構、仕事を楽しんでいた。
彼が初めてプログラミングに触れた時、〝まるで魔法のようだ〟と高揚した。
その気持ちはユキという人間の根幹となっていたのだ。
だから、プログラミングをしているときは自分が自分でいられる気がした。
だが、精神とは裏腹に身体はついてこれていなかったようだ。
平均睡眠時間3時間が常態化していた。
ユキは自分はショートスリーパーなのだと思い込んでいたが、過労は、知らずしらずのうちにユキの身体をむしばんでいたのであった。
そして、死に際にユキは思った。
「せめて……このバグ直してからにしてくれぇ……変数iが悪さをしているんだ……」
〝犯人はi〟
それが、ユキが死に際にメモに残したダイイングメッセージであった。(病死なのに)
◇
そんなユキが自身がこのような死を遂げた転生者であることに気が付いたのは、11歳の時であった。
魔王城が構える城下町に、平民として新たな生を受けたユキは、苗字はリバイスなどという、いくらか
そのことに気付いたユキ・リバイス(11)が最初に思ったこと。
それは……
(ゲームのような世界だな……というか、ゲームの世界だと思う)
転生したこと。
その世界が前世におけるJRPGゲームの定番の世界観であったこと。
それから半分、冗談めいた話ではあるが……
(Y(旧twetter)を買収したウーロン・タスク氏はこの世界がシミュレーションワールドである確率は99%なんて言ってたしな……)
そんな言説を知っていたこともあり、ユキはこの世界はやっぱりゲームの世界なんじゃないかと思った。
そんな驚きがあったのももう一年以上も前の話……
◇
「ユキ、そろそろ行かないと学校に遅刻するぞ」
洋風な石造りの集団住宅の一室。そのリビングで、壮年の男が穏やかな口調でユキに告げる。
「もう出るよ、父さん」
ユキ・リバイス(12)を学校へと促したのは今世におけるユキの父であった。
その傍らではユキの母も微笑んでいる。
魔王城が構える城下町に、平民として生まれたユキの両親は少し保守的でお堅くはあったが、普通の家庭であった。
平民なので、特権階級があるわけではないが、特に虐げられているわけでもない。
贅沢ではないが、慎ましすぎることもなく幸せな家庭に生まれ、ユキ少年は穏やかな少年時代を過ごしていた。
ユキには少年時代の記憶もあり、ちょうど前世の記憶と混じり合ったような状態であった。
ただ、前世の記憶が混ざったことで、少年時代の記憶が少し飛んでいることがあった。
◇
「それでは三限目は魔法学の授業です」
(きたか……!)
中等部生(現世でおける中学生にあたる)であったユキの唯一、好きな授業は〝魔法学〟であった。
ユキは前世において、小中高大と学生時代を送り、社会人となっていた。
ユキは転生により、もう一度、学生をやり直さなければならないことは正直、少し嫌であった。
学生には、テストやらレポートやら単位やらというものがつきものである。
根はまじめであったユキはそれらをこなすのに、割と苦労した記憶があり、その課題を今世においてもやり直さなければならないという事実は結構、辛かった。
そんなユキには悲報と朗報がそれぞれ一つあった。
まずは悲報……この世界には、前世のような高度な科学技術がないこと。
そして朗報……この世界には、〝魔法があること〟だ。
悲報の方……科学技術がないことは、すなわち、その一員であるプログラミングがないことを意味していた。
ユキにとってプログラミングがないことは辛い事実であった。
しかし、代わりに魔法があったのは救いであった。
魔法を学ぶことが今世におけるユキの楽しみであった。
そんな魔法のあるゲームのような世界に転生したユキには一つ、気がかりなことがあった。
それは〝魔王城〟の存在だ。
ユキは魔王城が構える城下町の平民の息子に生まれたわけだが、特にこの世界が前世でプレイしたゲームに似ているとかそういうのはなかった。
魔王と言えば、ゲームにおいて、勇者に討たれるのが昔ながらの定番の設定である。
しかし、魔王の街の生まれとはいえ、当事者である魔王であるわけでもなければ、貴族やら幹部やらの重役でもないただの平民。
この世界に勇者さまがいるのかどうかはわからないが、勇者が正義の味方ならばこんな平民を惨殺することなどなかろう……と、ユキは大して気にしていなかった。
故に……
〝自由気ままに生きよう〟
という結論に至っていたのであった。
「それでは本日はいよいよ魔法の実技訓練をおこないます」
ユキはゴクリと息を呑む。
今日は、そんな魔法のある世界において、初めて魔法を実践できる日であったのだ。
魔法は幼少期には使うことができない。
法律うんぬんではなく、本当に使うことができないのだ。
不思議なもので、12歳になると使うことができるようになる。
そして12歳になってからは今度は法律により、初めての魔法は魔法学の教官の指導の元、行うこととなっている。
その初めて魔法を使う日が今日というわけだ。
ユキはワクワクすると共に緊張していた。
これまでも座学で魔法のあれこれを学んできたが、魔法を実際に使うのは本当に初めてのことだからだ。
教室から専用の魔法訓練場に移動する。
「それでは、学生番号順に並んで、一人ずつ。あの的に向かって無属性魔法の
白髪で、おじいちゃんっぽい見た目の魔法学の教師は淡々とした様子で生徒たちに指示をする。
教師の指示に従い、一人ずつ、初めての魔法……
「〝光よ――力となりて敵を討て
「「「おぉおおおお!!」」」
最初の一人目の男子生徒が構えた右の手の平からサッカーボール大の光の弾が放たれ、的に向かって飛翔する。真ん中にというわけにはいかないが、見事に的をとらえて、的が砕け散る。
「「「おめでとう!」」」
最初の一人目ということもあり、周囲は感嘆の声をあげ、男子生徒を祝福する。
男子生徒も右腕を突き上げて喜ぶ。
その後も、一人ずつ、初めての魔法を放っていく。
光の強さやスピード、弾の大きさや的に命中するかどうかの違いはあれど、皆が初めての魔法を成功させていく。
そのため、早くも慣れが生じ始め、最初よりも拍手が適当になっていく。
そして、ついに……
「次、リバイス……ユキ・リバイス、前へ」
「はい……!」
ユキの番がやってきた。
「よし、では、実施ください」
教師は淡々と指示する。
(……ふう)
ユキは緊張した様子で、一度、息を吐く。
肩幅程度に軽く足を広げ、努めて肩の力を抜く。
右の手の平を前方に構える。
そして……
「〝光よ――力となりて敵を討て
「「「……!?」」」
飽きにより、少しずつ盛り下がっていた学生たちが久し振りに注目する。
(……っっ!!)
ユキの手の平からは、何も……何も放たれなかった。
「ゆ、ユキ・リバイス……肩の力を抜いて、もう一度……」
教師はユキに再実施を促す。
「は、はい……」
(い、いや……もう抜いてるんだけどな……)
「〝光よ――力となりて敵を討て
が、しかし、一回目と結果は同じ。
ユキの手の平からは、何も放たれなかった。
「ま、まぁ……そういう人もいるから……大丈夫。幸い、魔法補助具というものもある……」
教師は多少、
「え、ひょっとして無才?」
「教科書には確かに乗ってたけど、本当にいるんだね。魔法補助具なしじゃ魔法使えない人」
「止めなよ、聞こえてるよ、可哀相」
(っっっ……)
ユキは唇を噛み締める。
その間に、教師は次の生徒を呼び出す。
「次、アレイ・ハイレンス、前へ」
「はい」
(…………そんな)
「どんまいどんまい」
「っ……」
ショックから立ち尽くしてしまっていたユキの肩を、次の順番であったアレイ・ハイレンスが叩く。
「あ、ごめ…………っ!?」
立ち退こうとしたユキは、ふとアレイ・ハイレンスの顔を見てしまう。
その顔は必死に笑いをこらえているようであった。
「「「おぉおおおお……おめでとうー!」」」
その後、アレイ・ハイレンスも初めての魔法に成功し、結局、ユキのように失敗した生徒は他には一人もいなかった。
◇
魔法とは……ものすごくざっくり言うと、
体内で生成される魔素を集約し、具現化。
脳内で属性や動きや作用(
というものである。
基本的には得手不得手はあれど、この世界では、万人に魔力があり、魔法を使うことができる。
だが、稀に、〝魔生成不可者〟と呼ばれる魔法の具現化が絶望的に苦手な者がいた。
魔生成不可者は、魔法補助具なしでは魔法を扱うことができないのだ。
ユキは正にその魔生成不可者であった。
魔生成不可者は先天的なものであり、表向きには差別的な発言はご法度であるのだが、実際には〝無才〟と言われているのが現実であった。
そんな無才であることが判明し、それなりに落ち込んでいたユキであったが……
「ユキ・リバイス、ちょっと……時間、ありますか?」
「あ、はい……」
その日の放課後に魔法学の教師に呼び出された。
「リバイスくん、これを……」
白髪で、おじいちゃんのような見た目の魔法学の教師は魔法訓練場にて、ユキに棒状の物体を差し出す。
「え、えーと……これは……?」
「魔法補助具だ。魔生成不可者であった生徒には学校から支給されることになっている」
「……!」
(これが魔法補助具かー……)
魔生成不可者が魔法を使うことができるという魔法補助具である。
魔法補助具は木製の杖のような見た目をしていた。
木製の割に幾分、重みがある。
「……使ってみなさい」
「あ、はい……」
ユキは魔法補助具を手に持ち、その先端を的に向ける。
「魔法補助具を使う時は、〝
「わかりました」
ユキは再び息を呑む。
なにせ、すでに無才であるのだが、ある意味これは最後のチャンスである。
魔法補助具を使った上で、うまくいかなかったらどうしよう……
そう思うと、緊張で口の中が乾いてくる。
だが、覚悟を決める……
「……
杖の先端から青白い光の弾が連続で三発放たれる。
「…………でた」
(……しかも、三発も……!?)
「魔法補助具を使っているのだ。出てくれないと困る」
魔法補助具を使ったとはいえ、初めての魔法に目を丸くしていたユキに、おじいちゃん教師が当然である旨を告げる。
「あ、はい……」
(……!)
その直後、ユキは急激な倦怠感に襲われる。
「身体が重いだろう。いきなり光弾を三発も出せばそうなるだろう……」
おじいちゃん教師はまるでそうなることがわかっていたようだ。
「リバイスくん、その杖は君の所有物としてくれて構わない。魔法学の授業の時は忘れないようにな」
「は、はい、ありがとうございます」
それがユキと後に〝魔法具〟と呼ばれるデバイスとの出会いであった。
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