小春日和
@touka1212
第1話
朝、未だに見慣れない木目の天井が目に入る。
薄暗い部屋の中の時計は読めないのでスマホで時間を確認する。
11時47分。
13時や15時に起きていた頃よりかは頑張った方だ。
ゆっくり体を起こすと、まるで頭の血が一気に流れ出ているような感覚で、眠気と倦怠感に襲われる。
ここで負けるとまた自暴自棄な一日を過ごすことになってしまう。
背中を壁につけ、どうにか上半身を固定する。
まだ力の入らない手でカーテンを勢いよく開けると、眩しすぎるほどの光が私の目を刺す。
ただ会社が嫌だとか、環境が良くなかったとかそういうのじゃなくて、自分自身の生活さえ維持することができなかった自分がどうしても受け入れられなかった。
仕事、お金、見た目、恋人、それらを一生懸命繕うことに限界が来た。
そうして逃げた先で何も持っていない不安に気が狂いそうになる。
「散歩いかなきゃ」
私が外に出るたった一つだけの目的、それは飼い犬の散歩だ。
急な階段をゆっくりと降り、キッチンのすぐそばにあって物置と化しているテーブルで朝ご飯を食べる。
スティックパンとインスタントコーヒー。
何も食べないと気持ち悪いし、朝に栄養のバランスのとれた食事を用意できるほどの元気もない。
インスタントコーヒーは以前使っていたものと一緒のメーカーで、なんだか安心した。
今はおじいちゃんと二人で暮らしている。
でも生活リズムが全く違うので顔を合わせる時間帯は二人暮らしにしては少ない。
普段は外に出ていて、何をしてるか細かくはわからないけど畑をいじったり、町内会に出ていたり、私とは違って活発に動いている。
スティックパンを二本たべてコーヒーを飲み干すと洗面台に移動する。
顔を洗って鏡を見ると肌荒れが少し収まってきていた。
でも隈で台無しだ。
薬局で売っていた大容量の化粧水、日焼け止めと、アイシャドウはほぼこするだけ、ついでに眉毛も書いて、まつげはビューラーで上げるだけの最低限の化粧をする。
まつげ命でファンデのよれを逐一気にしてた頃の私が見たらきっとびっくりするだろう。
気の抜けた化粧に釣り合う服装に着替えると、玄関先にある赤いリードを手に取って、引き戸に手をかけた。
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