輪廻から解放されて

こーゆ

プロローグ

第1話 物語の始まりは

 わたくしは…… ルミネリア。それは何度生まれ変わっても同じなのです。


 また死んでいくのね。子供を身籠ることもできずに。

 二度とこの家に生まれてきたくはなかったわ。

 わたくしは何のためにここで生きるのでしょう。


 いつもいつも、思い出しては絶望する。

 わたくしはこの世で生きている限りこの身体になり、この名をつけられるのです。

 そしてそれはどの時代に生まれ変わろうとも変わることがないのです。




 もう、何度目なのかすらわからない。

「貴方の子を産みたかった……」

 そう告げて逝くのも……



 今度こそ、違う言葉が出ればいいけど。毎回そう考えるけれども、違えることはなかったのです。








 次こそ、違う人生を歩むのよ。

 今まで精一杯頑張ったじゃない。


 貴方に出会ってまた思い出したけど、今度は大丈夫。

 いつものように、貴方に恋をしたけれど。


 貴方にはすでに好い人がいたのだから。









「どうして…… わたくしがあなたと婚約をしなければならないのです? あなたには恋人がおられるそうではないですか」


「何故わかってくれないんだ。この婚約には家の総てがかかっているといってるじゃないか」


「あなたの家の事なんて、わたくしに関係ないわ」


「君の家も、これで持ち直すはずだぞ」


「家の為の結婚なんてしたくないわ。だいたい恋人はどうするの。お腹には子供がいるって聞いているのよ」


「結婚と愛情は別でいいだろう?」


「なんて酷いことを…… まさか彼女にそう言ったんじゃないでしょうね」


「納得してくれたさ。子供の認知はするのだし……」


「わたくしがそれに納得するとでも?」


「するしかないだろう? 君は一人で生きていけるはずがない」


「わたくしは嫌です。あなたと結婚なんてできません」


「我儘をいうなよ。昔はもっと素直だったじゃないか」


「我儘と? 愛人のいる男と結婚したくないのが我儘ですか?」


「親の決めた結婚を断るのが我儘というんだっ」


そう言って、彼はわたくしの頬をはたいた……


「ふぅん。言うことを聞かないならと暴力をふるうのね」


「なぁ。どうすればいい返事をするんだ? まさか、子供を堕ろせというんじゃないだろうな」


「あら? それならばわたくしと結婚せず、彼女とすればいかか?」


「もういいっ。どうせお前は出ていけやしないんだからなっ」


 ドアを叩きつけるように閉めて出ていく彼。

 ええ、歩くことがようやくのわたくしが飛び出すのは無理ですものね……





 どうして諦めてくれないの?

 どうして幸せそうな生活を見せつけるの?



 あなた達が勝手にくっつけば、みんな幸せになるじゃない。

 彼女もその子も、きちんと認められるじゃない。



 どうして…………





「あの人は帰ったかしら」


「お帰りになられました……」


「そう……」


 ほっとする……

 顔を見ない済むことに。言葉をかわさずにすむ事に……



 ふいに胸に痛みが走る。潰されていくような痛みが断続的に……

 うっくぅっ…… ずくんずくんと鈍く不正確な鼓動……

 ふっふぅぅ……




 こんどの終わりは病気なのかしらね……






 暫くして痛みも遠のいたので、部屋の中を歩き回る。

 どうすれば、いいのかしら……

 彼が彼女と結婚できれば、少なくとも二人は幸せになれるはず……


 わたくしと結婚しても、彼は彼女とは切れないだろうし……子供もいるのだから……彼女も日陰者と揶揄されるばかり……

 そして、そんな絆を目の前にして……わたくしはただ苦しむばかり……



 そのうち、早く死なないかと待たれるようになるんだわ……そう遠くは無いだろうけど。




「着替えます。用意を……」


「庭でしょうか?」


「ええ、少し外の風にあたりたいわ……」


 着替えを手伝ってもらうと、部屋から庭へ通じる戸を開けた、


「少し歩いてきます」


 そう告げて庭に降り立つ。ひっかけただけの靴は踵のないサンダル……

 風が……身の回りを舞って通りすぎていく。




 小さなハーブの花が、風にゆれ、香っていく……


 庭の中央に位置する池のまわりに光が舞っている……

きらきらと水面に反射するヒノヒカリ。








『そこから身を投げても死にはしないぞ』


 声が……

 辺りを見回すが、何処にも声の持ち主は見当たらない。


『見えはせぬよ』


 どこからか声が、聞こえる……

 まだ狂ってはいないと思うのだけれども……


『どうした、我が守護の娘ごよ』


 はっ!


「あなたさまが、わたくしをこの家に縛りつけるお方でございましょうか」


 この声のせいでわたくしは苦しむのか?


『縛りつけてなど、おらん』


「なら…… わたくしはどうしていつも同じなのです?」


『同じ…… と…… は?』


「どの時も記憶が絶えずあります…… あの木、その石、この池にそそぐ水にさえ、見覚えがあるのは……」



『契約…… だ……  我こそ 縛り付けられておる』


「どうすれば、その契約とやらが無効になるのでしょう」


『我はそなたの血筋と血縁に封じられておる』


「血筋? わたくしは一度として子を孕んだ事もございませんが」


『言い直そう。この家の血筋だ』


「では! この家の血筋が破棄をすれば、あなたさまもわたくしも解放されるのでございましょうな」


『いや、そなただ。その記憶を持つそなたが破棄を宣言すれば解放されるが。良いのか? 守護がいなくなってしまうぞ。そなたの父御も母御も…… 弟君も、今までのようには行かぬぞ? 良いのか?』


「では、お聞き致しますが、守護とは何で御座いましょう。他の方々はお持ちなのでしょうか?」


『いや、与えられるものは極少数だ。だからこそ、何としても欲しがっておるな……』


「では、これからはご自分で頑張って頂くとしましょう」


『本当に良いのだな? そなたの想い人も巻き込まれ……』


「良いのです。あの方は既に他の方に巡り合えておられるのだから」


『そうか……  では、そなたはこれからは異界に魂が送られる事になるが、それでも良いか?』


「ええ。この場所でなければいいのです。記憶も無ければ猶よいと」


『わかった。では我の手をとり祝詞をあげよ』


 すると目の前には壮年の偉丈夫が……


 大きく厳つい手にわたくしは手を預け…… 教えられた祝詞を……


『「……………………!」』








 池のほとりにて息絶えた娘が見つかったのは、それからすぐの事。






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