第10話:クレアス


「ねぇねぇクレアスぅ」


 登録を終えたので、仲間に弄られまくっているクレアスに近寄る。


「今度はなんだよ」

「いい宿なぁい?」

「あん?」

「私が泊まれる予算内で」

「あー。そうだな。安全性も考慮するとレクリースの宿屋かなぁ」


 クレアスの言葉に、冒険者仲間たちが反応する。


「あぁあぁ、そうだな、あそこならいいかもな」


 どうやらレクリースの宿一択らしい。私は素直に頷く。


「わぁった。それどこ?」

「あん? あー、そうだな。ちょっと奥まったところにあって説明がちと面倒いんだが……」


 これに反応したのは、やはり冒険者たちだった。


「クレアスが案内してやりゃいいじゃねぇか。なぁ?」


 そう言ってニヤニヤと笑っている彼らに、クレアスが不機嫌そうに「んだよ?」と告げれば、冒険者たち揃って大声で笑い転げた。


「ついでだから、お泊りすればいい!」

「そうそう!」

「コウメちゅわん! 好きだぁ!」

「クレアス! 私もよ!」

「ぶっちゅうううう! ってな!」

「ぎゃははははははは!」


 言いたい放題にからかわれるクレアスは大きく溜め息を吐いた。先程からずっとこの調子でイジられて、いい加減ツッコミ疲れをしているのだ。


 その様子を見た私は彼の肩に手を置いた。


「クレアス?」

「あんだよ!」

「私……」


 そう言って上目遣いで目を潤ませた。すわ泣くのかと皆が息を呑んだその時。


「貴方、好みじゃないの。私の好みは髪の毛がある人。スキンヘッドはちょっと……」


 すると私言葉が笑いのツボに入ったのだろう。周りが大爆笑だ。


「ぎゃははははは。クレアス! ふ・ら・れ・て・る!」

「あははははは。これは酷い。髪の毛かよ!」

「ハゲは嫌だってよぉ!」

「クレアス。残念! ぎゃはははははは!」


 場が盛り上がり、混沌としてきたとこで私はクレアスの腕を掴んだ。


「さて、宿まで案内して!」


 そう言ってグイグイと腕を引っ張る。これにはやはり冒険者たちが笑い声を上げ、クレアスは溜息を吐いて歩き出したのだった。


 宿に向かう途中の事。私は先程の感想を述べた。


「面白い連中だね」

「ちょっと度が過ぎるけどな」

「あはは。いやいや。私はもっとギスギスしているかと思ってたから」

「いや。まぁ何ていったらいいか……」

「私はあのノリ好きだよ?」

「そうか? 俺は少し疲れたがな」


 そう言って苦笑いをするクレアスだったが、彼から少し注意があった。


「まぁなんだ。確かに気の良い連中もいる。だがそうじゃないのも居る。だからもう少し気をつけた方が良い。お前を見ていると少し怖くなる。警戒心はないのかとな?」


 この物言いに思わず笑ってしまう。


「あはは。クレアスがまるで保護者みたいだ」

「あぁ。まぁ、俺に心配される義理は無いだろうが。だが、まぁ、一応、知り合った以上は、な?」

「ふぅん。クレアスって要らない苦労してそうだよね?」

「うっせーな」

「でも…… ありがとね。知り合ったのがクレアスで良かったよ」

「あ? あぁ……」


 そう言って少し照れているのか顔を反対側に逸らした。そんなクレアスを見て私は思わず笑ったのだった。。


 それからしばらく歩いて到着した宿屋は、小綺麗な小さな宿だった。


「ここだ」

「ん。あんがと」

「おう。じゃあ、まァ、頑張れよ!」

「うん。じゃあね」

「おう!」


 そう言って去っていく男に私は、いたく感心した。


「下心も無しの本気の親切だったか。つくづくお節介焼きで損な性分だなぁ」


 クレアスへの評価が密かに上昇。今度、会ったら奢ってやるか!


 時間は既に日が落ちて夕暮れ時。オレンジ色だった空が紫色へと変わり始めていたのだった。

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