女組長は女性がお好き?

さくしあ

第一話前編「賽の目と兎」

「あー楽しかった、ライブ最高だったー!!」


〇〇君の大量の推し活グッツが並ぶ部屋、ベッドの上で横たわる。

絶対目が合ったよ、高くて目立つアイライン使ってたし!

そんな事を考え、楽しかったなーと横になっていると…

忘れていたとんでもない事を思い出す。


「……そういえば、明日だっけ期限……あーもうどうしよ!!」


どうして、こうなってしまったのだろうか?

会社で受けたセクハラや、パワハラから来る日々の鬱憤を晴らすために

オタ活をしまくりクレジットカードは停止、自己破産した挙句

借金や闇金なんかにもただ借りただけなのに……。


どうしようかと悩む。

このままでは……身売り?それで済めばいいが殺されてしまうかもしれない。


「ほ、本当にどうしよう、何か何か……」


どこか稼げるところはないだろうか?と考えた時、ふと思い出す。

あれは何処に置いたかといろんなところを探す。


「あ、あそこえっと……あ、あった!」


鞄の中にあったメモ、そこに書いてあるのは、

前に噂で聞いた『女性専用賭場』の存在を思い出した。

無論違法だが、闇金の男たちにひどい目に合わされるよりはましだ。


「会社の先輩から聞いてたやつ、住所もメモっておいてよかったぁ」


多少は安堵する、善は急げだ、そう考え準備をし始めた。

……と言っても財布、かばん、軽い化粧くらいだが。

パフを叩いている最中、鏡をみる。

最近短く切った髪に、昔から入れている青色のメッシュ

顔はパッとしない顔立ち、それから……特段何もいう事はない体つき。

なんとも言えない気持ちになってくる。


「……さっさといこー」


準備が整った。さぁ向かうぞ、と扉から勢いよく出る。

扉にはヤクザの人たちが張り紙を大量に貼って行っており、

本当に後がないとわかる。もう夕暮れ時間がない早く行かないと!

私は全力で走り出した。



「……ここが……花十組!」


賭場と聞いて、汚いところだろうと思えば、出迎えたのは豪奢な日本庭園。

昔ながらの瓦屋根の質素ながらも、美しさを思わせる建物。

そんな光景に圧巻されながらも、門を開き中へと入っていく。


「賭博への参加ですね、ではこちらへどうぞ」


中には入れば、紅白の着物を着た、スタッフらしき人物に連れていかれる。

薄暗い廊下を歩いていると、沢山の女性の声が聞こえてきた。


「こちらです、どうぞ」


言われた部屋には入れば、そこには沢山の女性たちが様々な賭博をしていた。

顔が整った綺麗な女性や、豪奢な服装に身を包んだマダム、

良いところのお嬢さん…と女性の私から見て、美しい女性が多いのだ。


(綺麗な人たちだけど……賭博場来るくらいだからなぁ……)

 そんな事を考えていると、スタッフの人に声をかけられる。

「お客様、空いている席はこちらしかございませんので」


そう言われ席に座る。

案内された席にはほかにも客がおり、それぞれが獲物を狩る目をしていた。


「では、開始させていただきます、今回はこちら、チンチロでございます」


着物を着たスタッフが、粗方ルールを説明してくれる。

サイコロをふって、奇数が偶数か、それを当てるだけのゲームだ。

振るのは客達が、一人ずつ順番にだった。


(……サイコロの目!それならいける!)


なんと僥倖か、幸いにも私はマジシャンのアルバイトをいたこともあり、

手先が器用だった。サイコロの目を操るなんて些細な事だ。


「あんた、なに笑ってんよの」

「ふふふ、もちろん私が勝つからに決まってるでしょ?」


勝利を確信し、私は強気で煽り文句を返した。



「よし!また私の勝ち!」


笑いが止まらない、私のものとなった金の束、

それが目の前にあって笑うなと言われても無理だ。

他の客の時は少ししか賭けず、私が振る時には大量に持ち金をかけるだけ、

それだけでこんなにも、ちょろい稼ぎ方だな、また私はほくそ笑む。


「やってらんないわもう!!」


周りの客はもう限界で、次から次へと居なくなっていく。

この大金は私のものになるのも時間の問題だ、

借金を返してまたオタ活……そう考えていた時だ。


「ようもかってますなぁ、となりええどすか?」


いい気分になっている私の隣に、女が座る。

両肘を机につけ、頬杖をつき私のことを見ていた。

気分を害された、そんな考えは、

その女をはっきりと見た時には、無くなっていた。


その女は艶やかに光る長い黒髪、着崩した着物から見える陶器のように白い肌、口紅が真っ白な肌とのコントラストを奏でる。

長く真っ直ぐ伸びたまつ毛と、黒くはっきりとしたアイライン、目尻には真っ赤なアイシャドウがふられており、美しさを助長している。

そして、その瞳、瞳を一瞬合わせただけで、

心の奥底まで覗かれたようなそんなイメージを感じてしまった。


「どないしいや?そないな顔しはって?」

「……あっ、い、いいえ何でもないです」

(な、なにこの人?さっきの人達と何かが……?

何か胸騒ぎがする、なんだろう?この感じ?風向きが変わった気が……)

「お客様の番です、どうぞ賽を」


スタッフの人が私に言う、さっきのは気のせいだ、

そう言い聞かせながら、出す目を半に決めそのまま私はサイコロを振る、

からころと音を立てるサイコロ。


「私は半にかける!!」

そう言って限度額を賭ける。女は少し考えたのち。


「あては、せやんねぇ?丁にでも、賭けましょ」

ふっと、鼻で笑う私が出目を調節して振ったサイコロで、

負けるわけが無いでしょ?さ、これで私の完全勝――


「丁です!丁が出ました!」

「……は?」


思わず声が出るどう言うこと?

器の中を見れば、確かに出ている目は丁を指し示していた。

信じられないどうしてだ?訳がわからない。


「どないしたん?そないな顔して」

視界の端からずずいっとあの美貌が覗いてくる。


「な、なんでもないです!さ、さっさっと振ったらどうですか?」

そう吐き捨てその女から離れる、加減を間違えてしまったのか?それとも?



そんな私を尻目に女はニタリと笑ったのに気がつかなかった。

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