トランペットと飛行石

 俺は、朝のホームルームが終わるとこっそり教室を抜け出した。

 授業中ともなれば、俺の計画を邪魔するものがいないだろうと踏んだのだ。

 屋上に上がり、縁まで移動する。そして、持ってきた楽器をとりだす。

 そう、今日の計画は、某長編映画の一場面を再現することなのである。


 取り出した楽器は、リコーダー。

 わかるぞ。

なぜトランペットじゃないのかと言うのだろう。

 残念ながらトランペットを持っていないし、吹けないのだ。

 仕方がないから、手持ちのリコーダーで代用しようと相成ったのだ。


 そして、鳩がよってきそうな曲を吹く。

 だが、練習をしたがなかなかうまく、たったーららたーた、と吹けなかった。

 残念、子犬のワルツで代用しよう。


 吹き終わったら、制服のポケットからビニール袋を取り出す。

 それはもちろん、ぱんの、耳。

 俺の朝御飯のパンの耳を細かくちぎったものだ。

 手にのせて掲げてみる。


 鳩が来ない。


 その代わり学校に隣接する森に住み着いている烏が複数羽、「かーーー」と雄叫びをあげながら、バサバサと近寄ってくる。


 あまりの恐怖にパンの耳を取り落としてしまった。


 すると烏は、急降下して軌道をかえる。


 複数の鳥が向かってくるの、恐い…


 気を取り直して、続きを。

 次はポケットからペンダントを出す。


 本当は、青い涙形のペンダントが良かったのだが、手に入らなかったので、小さい頃、夏祭りの露店で買った七色に光るペンダントで代用。


 なにかないかと探したときに押し入れの奧から出てきて、ボタン電池を入れ換えたのだ。


 スイッチを入れると七色にビカビカと光る。

 ペンダントを首らか下げ、縁から飛び降りる。


 内側に向かって。


 そう、残念ながら転落防止のフェンスが張り巡らしてあるため、あちら側には飛べないのだ。

 着地をすると屋上の入り口の扉のところに人影を見つける。


「ふふ、やあ、高羽。…くく。とっても高羽らしいクオリティの再現だったよ…ふふっ」

「なんだ、良樹か。授業中だろ?なんでお前がいるんだ」


 こいつは、八坂 良樹。腐れ縁な親友だ。


「廊下を歩いていく高羽がみえたからついてきた」

「ふん。で、ばかにしに来たのか?俺的にはお前がみつあみ紺ワンピの立ち位置を再現してくれればもう少しクオリティが上がったと思うがな」

「えー、やだよ。それより、そろそろずらかった方がいいかもよ。リコーダー…ふふ…吹いてたし」


「まぁ、それもそうだな。じゃあいくか。今度はお前の再現な」


「あぁ、楽しみにしてろよ」


 そんなことを話ながら俺たちは屋上を後にした。

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