第81話 恋 🐚



人想ふ女ひとりや春の雪

すれちがふ心と心牡丹雪


たれもゐぬベンチに名残雪が降る

音楽堂のヒマラヤ杉の木の根明く


佐保姫に恋の行く方を問ひにけり

かげろふに恋人たちのまぼろしが


春泥や恋のわだちの深くあり

その一羽わが身重ねて残る鴨


春装を見せる人なき街路かな

沈丁の匂ひに恋をのせてやる


さらさらと虚しさこぼす春の空

恋人よそばにゐてこの余寒の日


黄梅やマラソンびとの靴の音

忘却をいざなふ春のひとつ星


連翹に季節の巡り知りにけり

ジョークさと笑ふ横顔春の闇


新生のあかりのごとく蝶生る

またの日の巡り来らむ月日貝


古傷になるときを待つ浅き春

春灯やベリーダンスの教室へ




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る