第8話 日の舟 ⛵



春浅しふもとの村の屋根光る

眉ひらく今朝の鏡や春の雪


坂多き南麻布の緑雨かな

緑蔭や風のめくれる歎異抄


くれなゐのポピーの丘を風わたる

過去よりも未来が大事さくらんぼ


風光るアコーディオンの蛇腹かな

身ひとつで死にゆく身なり花の雨


野に光みちて八十八夜かな

夕風の身八つ口抜け夏の月


愛されて馬の余生や秋うらら

赤のまま大きな墓と小さき墓


とりあへず飯の支度や野分あと

襟合はす十一月のしづけさに


愉しき日トルコブルーの毛糸編む

日の舟のゆらりゆらりと冬の川


片方の折れて人待つブーツかな

ポケットに手袋のある夜旅かな


リビングの小さき版画や年の暮

すこやかに生きて飲み干す寒の水




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