きみであって、キミではない
青
第1話
「俺、彼女が出来たんだ。」
突然の彼言葉に俺は言葉を失い、呆然とするしかなかった。押し寄せる感情は驚きではなく悲しみで、心の何かが剥落していくように感じた。気持ちが深い海に沈むような感覚とともに瞼が落ちて視界もフェイドアウトする。彼に今の自分の表情を見られないように俯く。黄緑色のカーペットは視界に映らず、伏せた瞼から涙がじんわりと滲む。潤む瞳を隠すように目を細め、俺は満面の笑みを浮かべた。
「そっか、良かったね。羨ましいよ。ごめん、僕用事思い出したから帰るね。」
矢継ぎ早に俺は言うとこの場から逃げるように鞄を持ち、ダークブロンドの長髪を靡かせながら部屋を出た。階段を下ると彼の母がいて無視は出来ず、「おばさんお邪魔しました。」と一言言って玄関を飛び出した。おばさんに何か言われたような気がしたが、閉まる扉に遮られて聞こえなかった。家を出るなり脇目も振らずに走った。心臓が痛く鼓動し、肺は苦しく締め付けられ、熱い息が口から吐き出される。徐々に走るスピードが落ち、最終的には歩みが止まった。荒い呼吸鎮めようと深呼吸をするにつれ、音や視界が冴え切っていく。何処まで走ってきたのだろうか。特徴の少ない住宅街ではパッと見何処にいるか分かりづらい。近所だったらいいのだが、普段通らない道に来てしまったみたいでここが何処なのかわからない。辺りを見回すと公園があり、近づくと無邪気に遊ぶ子供たちの声が聞こえる。座る場所がないかと探すとベンチがあり座ると張り詰めていた糸が切れたのか涙が溢れてきた。声を押し殺し涙だけを流す。頬を伝う涙がポツリポツリと雨のように地面に落ちて土の色を変える。雨が弱まるにつれて公園で遊ぶ無邪気な子供たちの声が、古い記憶を蘇らせた。
最初に思い出したのは、彼との幼い頃の記憶だった。まだ恋という言葉を知らない少年だった幸せな記憶。
俺に彼女が出来たと言った彼の名前は
俺の努力は全て無駄だった。小説や漫画と違い、現実は残酷でハッピーエンドにはならない。というか、まず自分が物語の主人公になれるはずがなかったのだ。自惚れすぎていた。彼の中で俺はただの幼馴染で親友なだけ。
「あぁ、本当にバカバカしい。恋は盲目って本当なんだな。やっと夢から覚めてみれば、馬鹿が一人踊りしているだけじゃねぇかよ。」
クソみたいな演目をただ一人で演じる愚者。なんと滑稽で馬鹿らしいのだろうか。くだらなさすぎて笑っちまうよ。
「はぁ、そろそろ帰るか。」
重たい腰を上げ、誰もいない家に帰ろうとスマホに自宅までのルートを検索した。そして俺はナビに従ってゆっくりと進み始めた。家まであと100mに近づいた時、誰かの大声が聞こえた。なんだ?と顔を上げれば、視界いっぱいに大型トラックのバンパーが映った。
ガンッ
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