傭兵くんは配信が見たい!
とりマヨつくね
プロローグ
ハロハロー、みんなのアイドルきさらだよー。
始まって早々だけど、今日は時間がないからさっそく曲のリクエストを……あ、名無しの傭兵さんスーパーチャットありがとう!
名無しの傭兵 100クレジット『いつも応援しています! 次のリリースも楽しみにしています^_^』
━━━ありがとう。そう言ってくれると、とても嬉しい。
じゃあ、せっかくだし少し贔屓して名無しの傭兵さんのリクエストに応えちゃおうかな? 何かある?
……わかった、じゃあ歌うね。
聞いて、『Prologue』
◇
『諸君、私が本作戦の指揮をするディル・エーディヒカイトだ。これよりブリーフィングを開始する』
インカム越しから、男は自ら名乗りを上げ作戦内容が伝えられる。
『本作戦は、惑星ジュリエットにある我がトライアル・セクト社が所有する兵器生産プラントを二ヶ月も不法占拠しているテロリスト集団の壊滅だ。
本艦が目的地に到着と同時に、君達アウター部隊を載せたカプセルを降下、プラントを制圧してもらう。
対宙用の兵器に狙い撃ちにされる可能性があるが、そんな覚悟がない者はこの場にいないだろう。幸運を』
御高説垂れている軍人擬きは、それだけ言うと通信を切った。
人一人分程度しかない狭いコックピットのシートに身を預け、ヘルマン・フレーメルは小さく息をついた。
彼は、人型機動兵器
……とまぁ、こんな格好良く自己紹介しているが、実際は一般的に創作で見るようなかっこいいものではない。
あんなのは何百万人のうち、一人いるかいないかだ。
悲しいことに現実というのは、どこまでも残酷で冷酷でどうしようもないものだ。
例え人類が悲願であった宇宙に進出し、何億光年の長距離移動が瞬時に移動することのできる惑星間航行を確立させた時代になったとしてもだ。
到来した惑星開拓時代の停滞と終焉によって各地でテロ、紛争が勃発。
戦火は広がってゆき、人型機動兵器
いつしか『停滞戦役』と呼ばれるようになったこの戦争群は、莫大な利益を独占しようとする金持ち達の道楽に成り下がり、ヘルマンのような
まさに狂気そのものだ。
そして─────その狂気を認識しておきながら、こうして戦争に身を置いている時点できっと、自身も普通ではないとヘルマンは理解しているつもりだ。
(──────やっぱり慣れないな)
それはそれとしてヘルマンは今、恐怖のそれとは違う震えを感じていた。
鎮静剤を打ってるし、コンディションも完璧のはずなのに指先の震えが止まらない。
別に怖いわけじゃない、これは本当だ。
どちらかというと、これは古いことわざで武者震いというやつなんだろう。
『ヘルマン、心拍数が少し上がっているぞ。何か問題でもあったか?』
通信機をオンにすると、小隊長であるエレス・ベイカーが俺を心配するように声をかけて来た。
「……問題ない。むしろ万全なぐらいだ」
『おいおいヘルマン、緊張してるのか?』
通信に割り込み、青年の声が聞こえてきた。
青年の名はジェームズ・バートン。ヘルマンの同僚で、何度か一緒に依頼を受けてそこそこの死線を潜り抜けた。
今回も偶然鉢合わせる形となり、同じ部隊に編成されたのだからとんだ腐れ縁だ。
「カプセル降下はあまり好きじゃないんだ。お前だってそうだろ」
『俺はそうでもないぜ。フリーフォールに乗ってるみたいで楽しいじゃないか』
「そう思えるお前が羨ましいよ……能天気で」
『なんだと!』
『うるさいぞ、バートン! フレーメル!』
突如、ダービスに一喝され、慌ててジェームズは「ヒィ、申し訳ありませんでした!」と声を発して背筋を伸ばす。
それに対してエレスは、やれやれと言わんばかりに深い溜息をついた。
『小隊各機、プライベートな会話はここまでだ。もうじき作戦領域に入る。準備が完了次第、降下する!』
『『「了解」』』
エレスの声が聞こえ、ヘルマンを含めた隊員達が応える。
膝に置いていたヘルメットを装着し、メインシステムを起動させる。
《メインシステム起動確認。生体認証開始……マスター・ヘルマンを確認。機体と接続を開始します》
と、COMから合成音声と共に機体とヘルメットが接続され、機体のカメラが捉えた映像が網膜に直接投影される。
予定通り作戦領域に侵入し、機体を固定する格納庫がゆっくり可動し、降下用カプセルに移される。
艦の後部のハッチが開口し、次々とカプセルが射出されてゆく。
射出されたカプセル達がジュリエットの重力に引っ張られ、大気圏に突入すると同時に摩擦熱によってカプセルの外部装甲が赤熱化する。
冷却ジェルのお陰でヘルマン自身は暑くもなんともないが、身体にかかるGに抗うのに必死でそれどころではない。
それにいくらダミーのものと混ざっているとはいえ、対宇宙兵器による狙撃される可能性もあるから、緊張のあまり変な汗が溢れ出てくる。
ガタガタと揺らされながら、計測器で地面との距離を正確に測ってゆく。
やがて
1000フィートを通過したら所で、
『
と、隊長の号令を合図にカプセルの装甲が弾かれ、内部に入っていた黒灰色の機体が自由落下の法則に従って落ちてゆく。
地面と接触する直前に、背部のジャンプユニットを吹かして安全に着陸する。
周囲の安全を確保すると、片膝を着いていた機体を立ち上がらせる。
操縦桿の配置されているスイッチをクリックし、マップを広げるともう既に友軍機はプラントを制圧しようと行動を開始していた。
『こちらはオペレーター。ペンデュラム小隊各機、応答せよ』
『こちら
『
「
『
『これより作戦を開始。通信傍受の可能性があるため、必要時のみ使用を許可する』
『ペンデュラム1、了解。聞こえていたな! ペンデュラム4はポイントに移動次第狙撃支援開始、他は俺に続け!』
「『『了解』』」
隊長の号令に返答し、フットペダルを蹴るように踏む。
センサーがより強い光を放ち、〈スタンピード〉はジャングルのように入り乱れた廃墟を駆け抜ける。
辺り一帯に警報がなると同時に、隠れていたアウターが姿を現し弾幕を張る。
『いたぞ、ADだ! 迎撃しろ』
『ここから先に絶対に通すな!』
『うおおおお!』
「通信が外部に漏れているぞ……素人どもが」
操縦桿とペダルを巧みに操って、そのコマンドの指示通りに放たれる弾幕の雨を<スタンピード>は潜り抜ける。
『ペンデュラム3、攪乱しろ』
「了解」
<スタンピード>の左肩の装甲が展開し、ミサイルを発射して敵の隊形を崩す。
その一瞬を見逃すことなく、ダービス機とエルス機が蜂の巣にする。
残り三機。
「ペンデュラム4、一機頼めるか」
「任せろ!」
ジェームズが応え、彼の機体<ファンキーバレット>の背部ハンガーに掛けた88ミリ砲を展開しグリップを握り、スナイパーライフルのように構える。
パイルを打ち込み機体を固定させ、狙いを定める。
引き金を引くと甲高い咆哮をあげ、敵機に巨大な風穴が開き爆発する。
残り二機。
ジェームズの支援砲撃で身動きが取れなくなった敵機に、スラスターの出力を上げ急接近する。
こちらを迎撃しようと、<シーカー>達が一斉に射撃する。
しかし放たれた弾丸は、<スタンピード>の何重にも及ぶ装甲によって弾かれる。
そのまま一気にスピードを落とすことなく、近くにいた<シーカー>にタックルをする。
体制を崩し、仰向けの状態で倒れた<シーカー>のコックピットを踏み潰す。
残り一機。
「最後の一機はどこに……」
瞬間、ヘルマンの指先が震えた。
<スタンピード>は左腕に装備していたアサルトライフルを手放し、振動ブレードを展開。
振り返り、後ろに回っていた<シーカー>に力一杯に突き刺す。
ブレードの刃を最奥までねじ込むと、敵機は数度痙攣した後、ぐったりと手足を投げる。
敵機は装甲の隙間から赤黒い液体を滲ませながら、糸が切れた操り人形のようにだらりと崩れ落ちる。
ブレードをカッターナイフのようにベキッと折ると、<スタンピード>は先ほど手放したアサルトライフルを装備し直す。
『各機、損害報告』
『ペンデュラム2、問題なし』
「ペンデュラム3、問題ありません」
『ペンデュラム4、オールクリア』
『上出来だ。作戦を継続する』
それからどれほどの時間が経過しただろうか。
視線を横のレーダーに向けると、敵性マーカーが全て消滅していた。
『Bポイント制圧完了。だが警戒は怠るな、何が起きるかわからないからな』
『そうは言っても、大したことがないすっよ』
『警戒は怠るなと言ったはずだ』
『へいへい』
適当に返事をするジェームズを横目に、ヘルマンは弾倉を予備の物に入れ替える。
遠くから銃撃音が鳴り響いているが、それもすぐに終わることだろう。
同時に妙な違和感が、ヘルマンの中でぐるぐると渦巻いていた。
いくら人員が少なく籠城戦をしているとはいえ、敵の戦力の大半は、旧型のADと固定砲台ばかりでが少なすぎる。
ジェームズではないが、この程度の戦力ならあまりにも脆弱すぎる。
これでは多少修理パーツをプラントで賄えるとはいえ、二ヶ月も籠城戦ができる筈がない。
それにしてもとても嫌な感じだ。
未だ指先の震えが止まらない。
こう言う時は、大抵ろくでもないことしか起きない。
『ペンデュラム1よりオペレーター、指示を求む』
『確認した。ペンデュラム小隊はそのままBポイントにて待機……待て! 熱源反応探知! この反応はまさか!? 全機、その場を離れ─────────』
オペレーターが何かを伝えようとしたところで、上空から青白い光が舞い降りダービス機を一閃する。
機体は両断され、断末魔すらあげる暇もなく爆発四散する。
《ペンデュラム2、シグナルロスト》
COMから無慈悲な宣告に、ヘルマンは指先の震えの正体はこれだと確信する。
煙は払われ、そこに立っていたのはたった一機のADだった。
有機的な曲線を描く藍色の装甲に、鋭角的で細身のシルエットは猫科の動物を思わせた。
「なんだ、あの機体……?」
『ちぃ! テロリストの奴らも、傭兵を雇ってたなんて聞いてないぞ!』
『企業からの情報が当てにならないなんて、いつものことだ! それにたった一機だけだ。囲んで叩けば問題は━━━!?』
突然のイレギュラーに対応しようとするが、蒼いADは右手のレールガンを構えていた。
砲身が縦に分割し、紫電を帯びる。
やがて光が上限に達した時、引き金が引かれる。
雷の豪矢が放たれ、エレス機は咄嗟に回避したものの右腕部を弾き飛ばされた。
『グゥ……!』
「ッ、下がれ!」
咄嗟にアサルトライフルを斉射すると、蒼いADは意図も容易く躱しそのまま市街地へと姿を消す。
「逃すか!」
逃げた蒼いADを<スタンピード>はすぐさま追跡する。
『おい、どこに行くんだよ!?』
「ペンデュラム4、1を回収して後退しろ。俺はあのアウターを追う」
『はぁ!? おま、馬鹿じゃないのか! あっちにも傭兵がいるとなると、一体どれだけの戦力が潜んでるかはわからない。それに今のヤツは相当の実力者だ。一人でどうこうできる問題じゃないぞ!』
「だからと言って、それにアイツを放っておくわけにもいかないだろ」
『……わかった。そっちはお前に任せた。それで良いなオペレーター!」
『ああ……許可する』
オペレーターの返答に、ヘルマンは頷くと通信を切る。
そして機体をスキャンモードに変える。
周囲の僅かな痕跡を手繰り寄せ、蒼いADを追跡する。
だが、ここでヘルマンはあることに気づく。
明らかに痕跡を残していて、まるでヘルマンが一人で追いかけてくるのが分かっているかのように。
「誘いこまれているな……ッ!」
指先が今までで一番震え、<スタンピード>の身を捩らせる。
ぐぅおん! とジェット機が通り過ぎたような音が響いたかと思えば、何かが横切り近くの建物を倒壊させる。
すぐさま別の建物へ身を隠し攻撃があった方へと目を向けると、例の蒼いADが横一文字に広がる紅い瞳でこちらを見つめていた。
「決闘気取りかよ……!」
ごく稀にいるのだ。
自分の腕がどれほどか試したくて、わざわざ邪魔されないような場所で一対一で強者と殺し合いをしたがる者がいる。
━━━━だがなぜ?
ヘルマン自身は無名もいいところで、倒したところでなんの名誉にもならない。
わざわざ誘い出しているのには何か理由があるはずだ。
━━━━わからない。
だが目の前にいる敵とは、どのみち戦わないといけない。
そうとなれば、やることは一つ。敵戦力の分析だ。
(これまでに使ってきたのは、左手のレーザーブレードと右手のレールガン。遠距離の射撃戦では決め手に欠けるこっちが圧倒的に不利だ。中距離まで接近してぶち抜くしかない。レールガンの射程は……どこにいても変わらないか。リロードから次の射撃までのインターバルはざっと十秒。だが接近しすぎてもレーザーブレードで一刀両断、か。はは……とことん隙がないな)
もうすでに退路は絶たれ、逃げるという選択肢はない。
だが死ぬわけには行かない。
ヘルマンにはここでは死ねないだけの理由がある。
だからこの勝負、絶対に負けるわけにはいかない。
過去からの分析は終わった。今為すべき事は定めた。未来に生きる覚悟が決まった。
ならば前へ進め。何も迷わず、唯一点を見据えて立ちはだかる『壁』を突き破れ。
それが生存への道標になる。
「……勝負だ!」
身を乗り出して建物から姿を現し、<スタンピード>は残っていたミサイルを全て放つ。
蒼いADがレールガンの引き金を引き、豪速の雷はその余波のみで相殺される。
だが止まることなくスラスターの出力を上げ、急激に接近しながら狙いを定める。
ロックオンマーカーが目標をセンターに入れ、操縦桿のトリガーを引く。
アサルトライフルの銃口から放たれた弾丸は、レールガンのコア部分である電磁投射機を貫く。
これでレールガンは使い物にならなくなった。
レールガンを潰された蒼いADは、レーザーブレードを展開して向かってくる。
蒼いADが先に間合いに入る前に、左手のライフルを投擲する。
咄嗟にレーザーブレードで切り裂くが、それがヘルマンの読み通りだった。
体制が崩れたところを狙い、右手のライフルを向ける。
二機の間には距離と呼べるものはなく、完全なゼロ。
これならどれだけ速くレーザーブレードを振るうより、<スタンピード>が人差し指を動かす方が早い。
「もらった!」
引き金に指を掛け、絞る。
━━━━だが銃口から弾丸が放たれる事はなかった。
ただ一瞬、まぶたを閉じて開く。
そのあまりにも短い時間で、それは起きた。
今放とうとしていたライフルが、三分割に切り裂かれていたのだ。
あまりの非現実的な光景にヘルマンは状況がわからず、反応が遅れる。
<スタンピード>が後退すると同時、光刃の先が装甲を掠める。
だがヘルマンは間合いに入ってしまった。
その隙を見逃すことなく、蒼いADは居合のようにレーザーブレードを構えていた。
(な、しまった!? 回避━━━━いやダメだ!)
ヘルマンは直感に従い、<スタンピード>は左腕の振動ブレードを展開して対応しようとする。
同時に光の刀身が通常ではありえない速度で引き抜かれ、振動ブレードと激突する。
一か八かの賭けに勝ち安堵したのも束の間、振動ブレードが負荷に耐えきれなくなり赤みを帯びる。
「く、くそ……!」
遂にブレードは焼け落ち、レーザーブレードが胸部装甲に食い込ませる。
火花を散らしながら近づいてくる死に、腹の奥底から全身を伝って冷たい感覚が伝染していく。
どうにか打開策がないか思案するが、全然思いつかない。
詰み、そう思った時だった。
突如、蒼いADがレーザーブレードを引き抜くと、スラスターを吹かしてどこかへ飛び去ってしまう。
あまりに突然の出来事にヘルマンは呆けていると、<スタンピード>をスポットライトの主役のように辺りを照らし、上空から声が聞こえてきた。
『惑星統合軍より戦闘を継続している全ての勢力に告げる。ただちに武装を解除し、投降せよ。繰り返す、惑星統合軍より戦闘を継続している全ての勢力に告げる━━━━』
惑星統合軍。それはこの宇宙で唯一の軍隊にして、最強の戦力。
その前ではマフィアであろうが企業であろうが関係なく、平等に断罪する。
彼らの介入を一度許してしまった場合、誰もその行動を咎める者は存在しない。
上空にはトライアル・セクト社のものよりも巨大な宇宙戦艦が浮かび、数十機を超えるAD群が降下を開始していた。
それを皮切りにあちこちで信号弾が打ち上げられ、辺りは昼の空よりも明るくなる。
一方のヘルマンもまた、他の者同様降参の意を示す。
未だ自分が生きていることに胸を撫で下ろしていると、一通のメールが送られてくる。
そのメールの内容をチェックして、ヘルマンは言葉を漏らす。
(そうか、今日はキサラのライブ配信だったな……)
かくして戦いは、随分呆気なく終わった。
だが捕縛されてから解放されるまで私物は没収されたため、キサラのライブ配信は見逃す羽目になってしまった。
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