第2話
でも私はめげない。一年経っても鵜飼くんのことがまだ好きなんだ。クラスの上級カーストなのに分け隔てなく誰でも気さくに話す鵜飼くんが好きなんだ。
私は駅に着いたとき、コインロッカーにチョコレートを入れた。さすがに学校外までチョコレートを探しには来ないだろうという目論見だった。でもチョコレートを渡すのは学校外じゃ意味がないらしい。それだと卑怯に思われて、たとえ両思いだったとしても百年の恋だったとしても一瞬で冷めるらしい。納得。
だから私は放課後に鵜飼くんに学校で待ってもらうように言って、猛ダッシュで駅のコインロッカーに入れたチョコレートを取りに行き、大村が職員室に籠っているときに渡すという作戦を考えた。またコインロッカーのカギが大村にバレる可能性があるので、ナプキンのなかに鍵を入れて使用済みのように巻き、女子トイレに隠した。
この日のために毎日サニタリーボックスを開けて調べた。その結果、毎週火金だけ回収されることがわかった。バレンタインデーは水曜日。カギの隠し場所はサニタリーボックスに決めた。
去年と同じく、大村が朝礼時にやってきて生徒を立たせた。じろじろと黒い目が女子生徒を観察していて気持ち悪い。今年は立たせた時点でチョコレートが発覚する人がいなかったが、ロッカーのときに二人没収されていた。その二人は過剰ともいえる大村の叱責ですっかり涙をにじませていた。可哀想だけど、徹底度が足りなかった自己責任でもある。
去年、チョコレートを没収された私に対して、大村は鼻息荒く調査していたが、当然見つけることはできなかった。ほくそ笑みたくなるのを堪えて無表情をつくり続けた。あとは放課後まで待つだけ。
授業が終わるたびにトイレに行き、サニタリーボックスを掘り起こし、カギが無事かどうか確認した。放課後には新しい使用済みのナプキンが増えて生臭さがきつくなったものの、予想通り回収されることはなかった。
あとは私が鵜飼くんが帰るのを引き留める勇気があるかどうかだった。でも、今日を逃すとまたチャンスは来年。今日を迎えるまでに鵜飼くんは隣のクラスの子と付き合っていた。今はもう別れたらしいけど、モテる鵜飼くんはいつ彼女ができても不思議じゃない。
青春ってのは一度きりなんだ。お母さんだってこっそり私に「あの時告白してたらどうなってたんだろ」とこぼしたことがある。子どもに後悔を言う大人になんかなりたくない。ナプキンに包んだコインロッカーのカギを握りしめると、手のひらが凹んだ。
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