第2話・稀代の悪女
「見苦しいですわ。やはりあなたこそが、わたくしたちのパーティーをかき乱した稀代の悪女」
口元にうっすらと笑みを浮かべ、彼女はそう続けた。
彼女の名前はロザリー。
一ヶ月ほど前に、私たちのパーティー仲間になった女性だ。
「身に覚えがありませんが?」
「なら、わたくしが教えてあげます。あなたはパーティー内の男性メンバーである、ハロルドとフォルカーに色目を使っていますわね? 嘆かわしい。あなたは男漁りをするために冒険者になったのですね」
心底軽蔑しきった目で私を見るロザリー。
私がハロルドたちに色目を使っているということだが……誤解だ。そんな事実は一切ない。
色恋沙汰はパーティー内において、トラブルの種だからね。
なんなら、そうならないように気を付けていたくらいだ。
それに……色目を使っているというならロザリーの方。
彼女はパーティーに入って、すぐにハロルドたちといちゃいちゃし始めた。
例を挙げると、まずやたらとボディータッチが多い。
しかもすぐに甘えた声を出して、二人に装備品やアクセサリーをおねだりする。
私なんて、なけなしの給金から自分で買ってたのに……だ。
さらにロザリーの服は、女の私から見て顔を顰めてしまうほど露出が多く、男の欲情を誘うものだった。
ただでさえ大きい胸を半分くらい曝け出しているものだから、ハロルドとフォルカーがよく鼻の下を伸ばしているのを見かける。
二人がロザリーに恋心のような印象を抱いているのは明らかだった。
「男たちに取り入って、パーティーを乗っ取るつもりですわね? だから稀代の悪女だと言っているのです」
「そうだそうだ! もっとリスクを取るべきだって指示もしてくるし。思えば、それもパーティーを乗っ取るための準備だったのでは?」
「まあ、私はあなたのような貧相な体つきの女性は好きになりませんがね(眼鏡くいっ)」
ロザリーの言葉に、ハロルドとフォルカーが囃し立てるように同意する。
二人とも、少しでもロザリーに同調して、彼女の気を引きたいらしい。
ダメだ……。
ハロルドとフォルカーも目がハートになってるよ。
「だから誤解です。私はそんな気は──」
「うるさい!」
私の言葉を遮って、ハロルドが大きな声を出す。
これじゃあ、言いたいことも言わせてもらえない。
「稀代の悪女で無能なお前を、ここで追放する! これは決定事項だ!」
どうやらハロルドとフォルカー……そしてロザリーの意志は固いらしい。
私がどれだけ言っても、追放は避けられそうにない。
それでも……ロザリーはともかく、ハロルドとフォルカーは長らくパーティーを組んできた仲だ。
少しくらい、忠告してあげてもいいかもしれない。
「……念のために聞きますが、本当にいいんですね? ロザリーも結界魔法は使えませんが……」
「くどい。何度でも言うが、結界魔法で守ってもらう必要なんてないんだ。なんなら、君がいることで集中力が削がれるし、この追放にはメリットしかない」
「……分かりました」
そこまで言い切られたら仕方がない。
「これ以上、私の顔を見るのも嫌なんでしょう? ここであなたたちとはお別れです。どうかお元気で」
踵を返す私。
そんな私の背中に、
「お前は自分のことを心配しろよ。すぐに野垂れ死ぬんじゃないか」
「その通りです。結界魔法しか使えないあなたが、これからどうやって生きていくつもりなんでしょうね?」
「良い気味ですわ。悪女としてパーティーを混乱に陥れた罪、しっかりと償いなさい。ほーほっほっほ……」
三人からの罵声を浴びせられる。
だけどハロルドたちは取り返しのつかない過ちを犯してしまった。
それは前世の記憶が蘇っておくと同時、私の結界魔法の真の力が分かったからだ。
私の結界はただの結界ではない。
なんでも出来る【
だけど私のことを罵倒する三人に、説明する義理はないよね。
──こうして私はパーティーから追放されたのであった。
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