最強無双の聖女様、追放される 〜【万能結界】で安全に冒険者ライフを送っているので、もうほっといて下さい〜

鬱沢色素

第1話・前世の記憶が蘇ったかと思ったら、追放されてた

(え……? なに、この記憶。私は……異世界に転生してきたの?)



 突然、私は前世の記憶を思い出した。


 前世での私は『日本』と呼ばれる場所に住んでいた。

 幸いにも裕福な家庭で生まれ、中高一貫の女子校に通い、就職もすんなり決まった。


 なに不自由もなく暮らしていたけど、唯一の難点があった。

 それは男性に対して免疫が出来なかったことだ。


 恋愛に奥手になってしまい、アラサーになっても恋人いない歴=年齢。


 そして仕事終わり。

 明日から連休だーとテンションが上がってスキップしながら歩いていたら、階段から躓いて転倒。

 当たりどころが悪く、そのままご臨終……なんて人生だ。


 そして女神様に力を頂いた上で、異世界に転生したってところまで理解したけど──どうして、こんなことを急に思い出したんだろう?



「アリシア、話を聞いているのか?」



 前世の記憶が頭に雪崩れ込み、戸惑っていると。

 目の前には訝しむような目をした男が。


「え、えーっと、すみません。ぼーっとしてました。なんでしたっけ? ハロルド」


 そう問いかけると、男──ハロルドは明らかに苛つく。


「ふんっ! あなたはバカですね。自分がなにを言われたのも理解していないんですか。これだから低脳は……」


 ハロルドの代わりに。

 もう一人の男──フォルカーも眼鏡をくいっと上げて言う。


「ならば、もう一度言うよ」


 とハロルドを指差し、



「君は今日限りでパーティーから抜けてもらう」



 と口にした。


 あっ、そうそう。

 前世のことを思い出して、それどころじゃなくなったけど……私はパーティー追放を言い渡されたんだった。



 異世界に転生した私は──とはいえ、今まで前世の記憶はなかったけど──冒険者になった。



 私を含め、の冒険者パーティー。

 唯一使える結界魔法の力で、パーティーに貢献してきたつもりだった。


 最初はよかったけど、パーティー仲間のハロルドやフォルカーは私のことを疎ましく思っていた。


 だけど追放されるなんて……。

 そのショックで前世の記憶を思い出したのかな?


「理由を聞いてもいいでしょうか?」

「そんなことも説明しないと、君は分からないのか」


 ハロルドは呆れたような口調で、こう続ける。


「君は結界魔法しか使えない無能じゃないか。わざわざそんなヤツを、パーティーで抱え込む必要はない」

「それだけですか?」

「それだけ……だと? 君は自分のことが、よく分かっていないみたいだね」


 はあと溜め息を吐くハロルド。


「僕たちは成り上がりたいのに、君はそうじゃない。今まで、僕たちを何度危険な目に遭わせてきたと思っているんだい?」

「ですが、ハロルドは今の冒険者ランクに満足していないんですよね? だったら、時には危険に飛び込む必要があると思うんです」


 私たちのパーティーは今、Aランク。

 とはいえ、SランクとAランクの間には大きな隔たりがある。

 これ以上は多少無茶をしなければ、一生Sランクには辿り着けないだろう。


「私はあなたの希望を汲んでいただけ。弱い魔物ばかり狩っていても、Sランクには昇格出来ません」


 それに私だって死ぬのは嫌。

 安全には十分に配慮していたつもりだ。


 おかげで今まで、パーティーの中で死人は出ていない。

 死亡確率が高い冒険者という職業の中で、これは驚異的なことである。


 もちろん、たまにはひやっとする出来事もあったが……私は十分自分のやるべきことをやってきたはずだ。


「あなたのやり方は『コスパ』が悪いんですよ」


 ハロルドに代わって、このパーティーの治癒士であるフォルカーが、


「この世は効率重視。ローリスクハイリターンな依頼を受けるべきです。私が計算したところによると、君がいなくなることによるパーティー昇格率は56%も上昇します」


 と説明した。


 ちなみにこの間、五回ほど眼鏡をくいっと上げていた。


「ローリスクハイリターンな依頼など、そうそう現れません。そういった依頼は人気ですからね。時期を待っていたら、冒険者としての旬を過ぎ──」

「ああ言えばこう言う! 君はほんっとに言い訳ばかりだね!」


 とうとうハロルドの堪忍袋の緒が切れた。


「君が納得しないなら、はっきり言うよ。君を追放する、最も大きな理由……それは君が『稀代の悪女』だからだ!」

「は……?」


 一瞬なにを言われたのか分からず、聞き返してしまう。


「稀代の悪女? 心当たりがありません」

「自覚がないのが怖いね。君は──」


 ハロルドが言葉を続けようとした時。



「あなたが説明する必要はありませんわ。ここから先はわたくしが説明いたします」



 今まで沈黙を守っていた、四人目のパーティーメンバーである女性がそう口を開いた。


 そうだ。

 彼女がパーティーに入ってきてから、うちはおかしくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る