53. 結婚祝い

「おい、これはなんだ?」


 トーマスの前には豪華な料理が並んでいる。ど真ん中には彼が仕留めた猪と雉の丸焼きがどん!と置かれている。


「あら~坊ちゃま。今日はジオ様とレイラ様の結婚祝いパーティーですよ」


 ミランダが答える。二日前二人は大人数を招いた盛大な結婚がパーティーを行っていた。トーマスももちろん参加した。なのになぜうちでまたパーティーをするんだ?と不思議でしょうがない。


「あら、あなたの大事な大事な幼馴染二人が結婚したのよ。個人的にお祝いするのが礼儀ってものでしょ」


 レイラそれは、当人が自主的にやるものだろう。なぜ、人んちで使用人たちが勝手にパーティーを開いているのか。


 それにしても……レイラの首元に輝く首飾りの眩しいこと眩しいこと。ヒルデが結婚祝いに贈ったものだ。細い銀細工にたくさんのダイヤモンドが散りばめられているヒルデが作った世界で一点もの。彼女が動いても動かなくてもキラキラキラキラ眩しくて仕方ない。一体それにいくらかかっているのか……トーマスが一生働いても稼げない額じゃないかと思われる。


 いろいろな意味で気が遠くなるトーマスにヒルデが話しかける。


「ご安心ください、坊ちゃま。費用はこの前の金貨で賄っておりますので。プレゼントは皆それぞれの給料で購入しておりますし。あっ……坊ちゃまはこの前の結婚パーティーで贈り物をしておりますので、この猪と雉の丸焼きで十分ですので」


 解呪するのに湖にばらまいた金貨を使ったのか。何やら呪われそうな……いや、解呪に役立ったのだから縁起が良いものなのか……。いや、そもそも解呪するのに本当に必要だったのか……。あれ……?自分もヒルデにもらった金貨を使えばもっと良い贈り物ができたのでは……?


 まだ少ししか飲んでいないが酒が効いてきたのか……ただの考えすぎだろうか……ぐるぐると頭がフル回転するが、わけがわからなくなる一方のトーマスにヒルデが心の中を読んだのか、話しかけてきた。


「坊ちゃま。間違いなく、この金貨は役に立っておりました。これがなければ話しもできなかったてすよ……たぶん。人間はお金に弱い生き物ですから。それに、今こうして役に立っているのだから良いのですよ」



 おいおい、今小さくたぶんって言っただろう。いや、もう魂だけの存在になってたのにお金に弱いも強いもあるか。


 フーと息を吐く。そんなトーマスを尻目に皆盛り上がっている。ささっと近寄ってくるものが一人。


「すまないな」


 本当に申し訳無さそうな顔をしたジオだった。でも、どこか照れくさそうな嬉しそうな顔をしているのを見て、力が抜ける。


「ジオのせいじゃないだろ。それに、まあお前たちが無事に結婚できて良かったと思ってるのは本心だしな。ヒルデの登場でちょっとどうなるか、って心配してたしな……」


「あははは、すまないな。自分の心にもちゃんと気づかないとは恥ずかしい限りだ。……………」


 その後少し口籠るジオ。


「…………なんか一日二日で色々あったな。なんの役にも立てなくて申し訳なかったな」


 意を決したようにようにジオの口から出たのは解呪の件だった。あの場に一緒にいたのに何もできなかった。ミランダとアイルを除けば自分が一番長く一緒の時を過ごしてきた自覚がある大切な幼馴染。何もできなかったことが気がかりだった。


「いや、そんなに大変じゃなかったような……俺は主に話しを聞いてただけだしな。俺自身も何が何やらわからないうちに終わったし。そもそも俺も何知らず過ごしてきてたしな。まあ、大変じゃなかったとは言えないか!だって、先王が来たり、黒獅子が突然来たんだぜ!?それだけでまず驚きだよな!」


「ああ、俺も驚いた」


 現場に居合わせたものの、色々と驚きの連続で言葉を発することもできなかった。あの場でなんとかできたのはヒルデのみだったが、言葉すら発することもできなかった自分に呆れてしまう。家に帰り父親である伯爵に話しをしたとき、ああ…………それでと父親が話しだしたことがあった。


「父上が言っていたんだが……。昔お前が生まれたときお父君の目つきが変わったって言ってたんだよ。昔から飄飄としているのに、でもどこか悲しげな顔をしているような気がしていたが、何かを決意したようだったみたいだ。お前のために呪いに向き合うと覚悟したんだろうな」


「ああそうなんだろうな……」


 複雑そうな顔をするトーマス。


「有難いことだし、感謝すべきなんだろうな……でも、側にいて欲しかったって思っちまうのは俺の我儘なんだろうな……」


 周りの人から親代わりの愛情は得てきたと自覚がある。父親は自分のために離れることを選んだことも理解しているをでも…………母親も幼いときに亡くなり、父親には側にいてほしかった。


 ジオは答えなかった。子供が親に側にいてほしいと思うのはわがままでもなんでもない。そこにどんな理由があるにしろ。当たり前のことだ。

 

 しかし、肯定することも憚られた。彼の父親が全てを捨ててまでやり遂げたことは事実なのだから……。彼がヒルデを探し出さなければ解呪はなされなかった。彼がヒルデの側にいなかったら今の彼女ができあがっていたかもわからない。トーマスももしかして死への恐怖に苛まれる人生だったかもしれない。とにかく彼の行動がトーマスを更にその先の未来守ったことな間違いない。


 それがなければ今ここにトーマスはいない。ジオはトーマスの父親の行動に感謝しているのだから……。


 というわけで、話しをガラッと変えることにした。ガバっと片腕をトーマスの肩に回す



「それにしても、解呪もされたし、これでサラさんとくっつけたら万々歳だな」


 解呪も何も、呪いのことをしらなかったトーマス。彼に恋人、結婚相手がいなかったのは単純にトーマスの恋愛音痴な行動故だったのだが……。



 

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