52. 俺の親父はどんなやつ?③

「どうしてお前は一人でやろうとしたんだ?キール将軍ぐらいは頼っても良かったんじゃないか?」

 

 その言葉にひどく真面目な顔になるヒルデ。思わずトーマスも真剣な顔つきになる。


「坊ちゃま」


「なんだ?」


「彼は役に立ちましたか?」


「………………まあ……特に何か…………してはなかったな………」


 黒獅子と呼ばれる将軍キール。彼は間違いなく優秀、いや天才というべき人間である。剣術も、ヒルデには劣るが魔術も……国、いや世界で何番目かというレベル。


「彼がなぜ解呪に加勢しなかったかわかりますか?」


「そうだな……。自分では太刀打ちできないから……?逆に邪魔になる可能性があるから……」


「流石坊ちゃま両方とも正解です」


 パチパチと手を叩かれ、子供のときに戻った気分になる。


「2対1になったからといって優勢になるものではないのです。王女とお子様の力はマジでヤバいものでした。彼が加わることで彼を守る必要まで出る可能性も出てくるほどに。それがわかっていたから彼は呪いの存在を知っても……あの場にかけつけても何もしなかったわけです」


「でも言ったって害はないんだから、黙ってる必要はなかったんじゃないか?」


「害になったかもしれないじゃないですか」


「?」


 どんな害があるというのか。ちゃんと手出ししてはいけないこともわかっていたし、邪魔になることはなかったはず。不思議そうな顔にフッと軽く笑うヒルデ。


「坊ちゃま。父君がこの呪いで一番気を使っていたことはなんだと思いますか?」


「?」


 もたもや頭に?が浮かんでしまう。わからないものはわからないのだから仕方なし。しばらくトーマスの顔を見ていたヒルデは答えが出なさそうなので答えることにした。


「あなたに呪いのことを知られないことです」


「………………」


「父君が男爵家に帰らなかった理由の一つでもあります。自分の態度であなたに呪いの存在を知られる恐れがある。だからこそ父君は坊ちゃまの側にいることを選ばなかった。さて、では呪いをバレないようにするためにはその他にどうすれば良いでしょうか?」


「………………誰にも話さない……?」


 トーマスの答えに満足そうに笑う。


「誰にも、は無理ですが。本当に信頼できるもの、何かあったときのために知っていなければならない者以外には話さないことです。現王が知らなかったのも先王が余計な心配をさせない為に配慮したものでしたが、話しを広げすぎないためということも理由の一つでした。ただでさえ王には色々な悩みの種がありますからね……増やす必要はありません。もし先王に何かあったら私か側近の方が話すことになっていました。キールも結局何かできるとは思えなかった。だから話さなかっただけです。役に立たない人間に話す必要なんてありません。内緒話は少なければ少ない方が良いのですから」


「そんな理由で私的な理由とか言って誰にも言わなかったのか?」


 少々呆れたような顔をしているトーマス。その顔を見て、何やら少しだけ複雑そうな表情になるヒルデ。


「………………あとは……解呪は私の生きる意味でしたから。それを他者と共有するというのは気分が良くありませんでしたし……独り占めしたい……意地だったのかもしれないですね」


 小さい声で呟かれたのであまり聞こえない。あまり良い表情ではなかったので、深く聞くのはやめた。


「ふーん……そうなんだな」


「はい」


 それっきり会話が止まった。トーマスはなんとなく手に持っている袋を見る。これだけあれば色々なことができるな……とぼーっと考える。


「坊ちゃま」


「んー……なんだ?」


「これ何に使うんですか?」


 袋を指しながら尋ねてくるヒルデ。


「んー……考え中だ。………………お前は?」


「そうですねぇ……。まあとりあえずあれに使おうと思います」


「………………あれ?」


 トーマスの疑問には答えずそうです、あれですと華やかに笑うヒルデ。その顔はひどく楽しげで……とても眩しかった。




 

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