41. 先の王登場
どこからか音がする。4人の声でも4人が発する音でもない。木々の音でも、風の音でも、そしてヒルデが沈んでいる湖の中からも何かが行われているはずなのになんの音もしない。
ではどこからか………………
4人は耳をすませた。
『………………お~~~~~い…………』
人の声だ。どこか遠くから声がする……。
『……おい!ここだ!……どこ見てる……違う!…………』
誰かがこちらに向けて話しかけている。大声で話しているようだが、なぜかか細い声しか聞こえない。
「……?…………。どこかで聞いたことがある声だ……」
キールが呟いた。どこだ?どこで聞いた声だ?
『……こらっ!……お前は元主人の声も忘れたのか!……』
?元主人……?黒獅子の今の主は王。じゃあ、元主は………………?
「………!!!先王!?」
そう、声の主は先王だった。
「どこですか!?どちらにいらっしゃるのですか?というよりもそもそもなぜこちらにいらっしゃるのですか!?」
いつもの落ち着いた姿とは違って、焦っている。他の3人は驚きすぎて言葉も出なかった。
しかし……声はするものの姿は見えず。一体、どこにいるのか?
『……ここだ!……ここ!……そこの小僧がさっき割ったペンダントの水晶の欠片だ』
その言葉に4人は身を屈めると、水晶の欠片をじーーーっと見る。王だったものの言葉とは思えない品のない小僧という言葉は皆聞かなかったことにする。
「「「「いた!!!っていうかちっさ!!!」」」」
4人の視線の先……5ミリ四方くらいの水晶の破片に小さーーーい人と思われるものが映っていた。小さすぎて顔の判別などできないが……。なんとなく偉い人っぽそうな気がするから恐らく先王だろうとキールは判断した。
『おい!だれか鏡持ってないか?』
破片に近づいたからかちゃんと声が聞こえるようになった。
「私が持っていますが……」
ミランダがエプロンのポケットの中から少し大きめの手鏡を出す。するとふっと破片から皇帝の姿が消えたかと思うと、手鏡の中に10センチくらいの皇帝のドアップがうつった。
「えっ!?」
ミランダが驚いて、落としそうになったところをアイルが素晴らしい反射神経でキャッチする。
「さっきから呼んでるのに、もっとはやく気づいてくれよ~~~」
怒っているような、呆れたような声を出している金髪にアイスブルーのザ・王族といった見た目の男。先代の王。まだ王として政務ができる年齢・体力・知力を兼ね備えていたのに疲れたからと若き息子に跡を任せた男。適当に見えて大臣たちのお飾りの王にはならず、むしろ王権を強化したやればできる男。そんな感じの人……それが先王だった。
どこにいるかに気を取られていたが、居場所を見つけるとはた、と気づいた。なぜそこに先王が?心の声を出したのは最も先王に近い男……黒獅子の称号を持つキール将軍だった。
「何をしていらっしゃるんですか?先王」
「呪いが活性化さたのに気づいて、様子を見るために湖の近くにあるものに自分の視界をうつしたんだよ。そしたらさー、めっちゃちっちゃい破片だったから俺がびっくりしちゃったよ」
なんか危機なのに危機を感じさせない。自分本位な答えに呆気にとられてしまう。しかし、キールは気づいた。
「先王はここの呪いのことをご存知なのですね?もしや、詳しいこともご存知ですか?」
キールの問ににやりと笑った先王。その笑みは肯定を示していた。
「ああ。ちゃんとここの当時の男爵は呪いの届けを出しているからな。現王の息子が知らねえのは俺が教えてないからだ。そして、お前にもな。ヒルデと俺でなんとかしよう……いや、するつもりでこれまで準備してきたからな。……まあ、俺はこうやって誰かに話しをすることしかできないけどな。どうにかできると思って黙ってたんだがな……。やっぱり無理だったな。キール、今から話しをするからよく聞け。その素晴らしい頭脳を働かせて、呪いの力を弱めるんだぞ」
何やらべらべらと話しだしたかと思ったら、いきなりの命令。まあ、理不尽なのには慣れっこのキールは平然としている。が、残りの人はポケーとしている。なんか王室のイメージが崩れていく……と思いながらも、何やら先王が話そうとしているので、大人しく聞くことに専念することにする。
「先王、少々お待ち下さい」
神妙な顔で言い出すキール。
「どうした?」
神妙な顔で答える先王。
「お花摘みに行ってきます」
「…………行ってこい」
(((え~~~!?この緊急事態に!)))
と思いつつ、声には出さない。とはいうものの、察したのか先王が話しかけてきた。
「トイレに行く時間くらいとったって、構わない。話しは長くなるしな。ヒルデならなんとか持ちこたえる。……いや、どうにか打ち勝ってくれるとは思うがな。あいつが負ける姿なんて思い浮かばないしな。相打ち……はあるかもしれないが……」
最後の方に嫌な言葉を聞いたが、知らないふりをした。少しすると、キールが戻ってきた。
「申し訳ない。ちょうどトイレに行こうとしたときに召喚されたもので」
まあこちらも緊急事態ではあったのだ。
「んっ!」
先 王がとりなすように咳払いをした。
「それでは、この呪いの話しをする。よく聞くんだぞ。気づいたこと、思ったことがあったら意見を出してくれ。高位貴族、貧乏貴族、平民しかも使用人。いろいろな立場の人間が揃っているのだ。考え方もそれぞれ違うだろ。それぞれの観点から呪いの打破となる点を見つけ出してくれ」
先王はそうして語りだした。
でも、トーマスは思っていた。前から知っていたという呪い。元王や元将軍が何年も準備してきたけど、どうしようもなかったものを自分たちがどうこうできるとは思えなかった。
しかし、今できることは話しを聞くこと。それだけ。それがトーマスには悲しく、自分に憤りを感じるのだった。
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