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佐々井 サイジ
第1話
玄関に脱いだヒールは倒したまま、部屋に進み、ベッドにダイブした。思い切り枕を抱きしめる。でもメイクがつくと後が面倒くさいから顔を浮かした。ついに浩太からプロポーズされた。天井のライトに手を伸ばして薬指にはめた指輪を眺める。まだ指輪をはめる感触に慣れない。
鞄に入っているスマートフォンが震える音がした。ベッドを這って鞄を掴んでスマートフォンを取り出すと浩太からLINEが届いていた。
『今日はありがとう! プロポーズ受け入れてくれて本当にうれしかった! これからもよろしくね! あきな大好き』
喜びの感情が身体の内側から滲みだしてくる。
『こちらこそありがとう! こんな私みたいな人間にプロポーズしてくれて浩太は優しいね。わたしも大好きだよ!』
これからどうなるんだろう。お互いの親に紹介しに行って、式場と新居を探して、新婚旅行も決めないと……。その前に友達に報告しないと。やることが多いわりにちっとも憂鬱にならない。LINEで連絡せずに来週の高校の同窓会で発表しようか。
高校の同窓会用につくられたライングループの画面を開けた。えりぽん、ゆきの、さえち。懐かしいな。早く会いたい。同窓会に参加するメンバーをスクロールするたびに懐かしい名前が思い出される。
心臓が大きく跳ね、指が止まった。『西森大輔』高校時代に付き合っていた元彼だった。はじめはすごく優しかったけど、だんだん異様な束縛をされるようになった。男子と喋るだけで『何喋ってたの?』『俺がいるところでよくそんなことできるね』と家に帰ってもメールが届き続けた。だんだんそれが重くなってきて最終的には私から別れを切り出した。それからも大学生になってもしばらく復縁を迫られたっけ。
大輔の電話番号を登録しているから、LINEグループでなくても大輔の名前は出てくるけど、意識的に見ないようにしていた。
大輔のアイコンをタップすると山の頂上らしきところに立ってピースしていた。その屈託のない笑顔からはあの嫉妬深さは微塵も感じられない。もうあの性格は緩まったのだろうか。
このLINEグループに大輔の名前があるということは同窓会に参加するということか。さっきまでプロポーズされてほくほくだった感情はゆっくりと冷めていった。まあ、あれからもう十二年経ったんだか向こうも彼女くらいいるよね。大丈夫だよね。
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