二
里に近づく者が、まず目にするのは、先を尖らせた杭や鋭い枝の付いた木をななめにくまなく埋め込んだ柵だ。それから、水堀をめぐらせた
里には、いくつか入り口があるが、どの入り口も兵士が厳重に警戒している。
半地下の竪穴式住居をいくつか通り過ぎた先の、ひときわ大きな高床の掘立柱の
舘の二層めにあがる木の階段のそばには、丸太を横倒しした腰かけがあった。
うながされて
(自分のことは自分でできるか)
それだけたしかめて、「ついてこい」と、
そして、舘の二層めの床に顔を出した
「
将軍は、ひさかたぶりに
この男は、百人いる兵のあらかたの名と顔を頭に入れているから、見慣れぬ少年を、すぐに見とがめた。
それを真似て、
「
よく磨かれたすべらかな板の間に、
「城の中に、この男子はおりませなんだ。岩山に
終わらなかったのは、「失礼ながら申し上げたきことがございます」と、将軍のとなりにひかえていた
さきほどから、
男にしては線が細いと思ったら、女だった。
「その者は子供といえど、
「奴らには極刑が待っておる。軽い刑罰などで済ませたら、それこそ、わが宮の統治が
郷主の身内は、
同じころに前任の
「
「
細かい説明はしなかった。
「おお」
(むぅ)
将軍は自身の右側に、大刀を置いた。
「これは預かりとする。
そこへ、はした女が
山盛りの飯に、
将軍は副官である
きゅうと、腹が空腹にしぼんだ。よだれが口の中にあふれて来た。
「おい。腹が減っているようだな。その仔犬は」
「毎回、どの戦場でも、おまえは野良を拾って来る」
「毎回、ではございません」
「では、ほぼだ。おまえは死んだ弟の年頃の男子に本当に弱い」
それから、ずっと、
「
「そら。食べるといい」
(沁みる。水の中にいる魚なのに、若草のような味がするのだな)
腹の中が歓喜した。ちょっと、むせた。
「助けてもらった
「別段、助けてもらってはいない」
即座に
「いや、名をもろうたことは恩に値する。義は感じるべきだな」
「偉そうだな! 少年!」
石英将軍が、がははと笑った。戦局にあって、しばらく大声で笑ったことなどなかった。つられて、
「飯を一膳、追加したい。
石英将軍は、ひかえていた郷主に悪びれず所望した。
「お持ちいたします」
そこから、渡り廊下で別の高床式の舘へつながっている。
吹きさらしの渡り廊下の木の床の冷たさが、
(にくいにくい
あと、手下となっていた者や、あの少年のような女子供が捕らえられて、里の一角の舘に保留されている。
(あの少年、
そう思えど、
(
郷主の目に、ちらちらと
「
さて、渡り廊下の向こうでは、
「本日は、まことによき日となり申した。
「いや」
女としての名を呼ばれた
「生き残っている男子がいる。
(それに、とてもいやな気配がした)
「生き残った者どもは」
神官は、そのことを
「明日、
「そうとも」
「では、その黒い
神官の提案に郷主は、うすいくちびるの口角を上げた。
「神に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます