みずいろに黄昏るとき

梅林 冬実

みずいろに黄昏るとき

スマートフォンよ

よくこの世に誕生してくれた

あなたのお陰で私はどれほど救われたことか


疲れたとき

困ったとき

上司から大目玉食らったとき


あなたの顔をそっと撫でるだけで私は

自由な世界に羽ばたける

羽ばたきっぱなしだから上司に叱られるのだけれど


同僚の視線が痛いよ

先輩からのそれはもっと痛いよ

後輩から嘲笑されていることくらい知ってるよ


だけどさ

みんながサラッと教えてもらった程度のことを

サラッとできるようになる構造が

全く理解できない私にとって

私はみんなと一緒じゃないし

みんなは私と一緒じゃない


そんなんじゃ孤立するだけって言われるけれど

もうとっくに孤立している私にかける言葉としては

聊か弱いかな なんて

また怒られそうなことを考えてしまう


さっきね 素敵な詩に触れたの


紺碧の海にライムをひと雫

底にエメラルドを抱く水面を眺める少年の横顔は

いつかどこかで見た記憶があって


誰だか思い出そうとするあいだに

視線を彼から離せなくなっていることに気付く


すっと通った鼻筋

媚びを知らない瞳

きゅっと結ばれた唇


「君は誰?誰なの?」


声をかけても知らん顔

聞こえないんじゃなく聞いてくれない

お前なんかに用はないとでも言いたげな

そんな少年に恋をした


カフェの余韻

ミルクラテをひと口

こちらに見向きもしない少年を思うと

胸が張り裂けそうになる


昼のまどろみ

穏やかな時間

直接的な音を立てるキーボード

電話のベル

誰かの声


煩いなんて思わない

全てが私の心を彼へと誘う

素敵な計らい


電話鳴ってるでしょ!

おい何やってんだ!

なんて喚かないで

日が落ちる前に どうしても

彼と繋がりたいんだから

こちらを向いた彼に

名前を聞いて どこから来たのか聞いて

今夜の過ごし方を聞いて


素晴らしい出会いを

より素晴らしい出来事にするために

どうしても必要な時紡ぎなの

だから邪魔しないで


上司がとうとう椅子から立ち上がった

先輩が慌ててこちらに駆け寄ってくる


ああ!違う!違うの!

あんた達に出番はないの!


私はこれから不意に訪れたまどろみと共に

エメラルドの水面を眺めるの

彼と一緒に

空の青と海のエメラルドが優しく重なりあって

いつしか水色に染まった風に吹かれ 黄昏るの

透明に輝くこの場面に

あんた達の居場所なんてないのよ



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みずいろに黄昏るとき 梅林 冬実 @umemomosakura333

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