成り損ないの母と魔王の娘
如月うみ
二度目の生を
第1話 どうしようもない
二〇××年十月六日、午後四時二十四分。
私、木島みそらは死んだ。
享年は十五歳、死因は絞殺。学校から帰ってきたらついに気の狂った母親に首を締められそのまま死亡。
天気は快晴であり少し暖かい日だった。
見たいテレビもあったし、食べたい新作スイーツもあった。
完全に意識を失う前に見た景色は笑いながら人の首を締める母と、ハサミでバラバラにされ地面に散乱していた雑誌。内容はよく分からなかったが「バンド」「結婚」という単語だけは見えたので、なぜ母がここまで狂ったのかは予想が出来た。
長くなってしまうが、私の余生について少しだけ話させてほしい。
誰かに話さなかったら私は誰にも知られず死んでしまったことになるのだから。
一番古い記憶はもうすぐ三歳になる数日前の事。父と喧嘩する母の記憶だった。
母の金切り声がうるさくてお気に入りの熊のぬいぐるみを抱いて押し入れの中で耳をふさいで蹲っていたのをよく覚えていた。
「あんたにいくらみついだとおもってるの」
「うるせえな」
「あんたのこどもまでうんだのに」
「だからだよおまえゆるいんだよ」
「だからあんなおんなとやったの」
「ああそうだよおまえにはもうようがねえんだよ」
「ふざけんな」
聞いたこともない言葉が飛び交っていて、大きな音が鳴り響いて、母の泣き声が聞こえて、叫び声が聞こえて、最後に大きな大きな音が響いて。それで何も聞こえなくなった。だから押し入れからゆっくりと顔を出したら母に思いっきり髪を引っ張られてそのまま力任せに殴られた。何か叫び散らかしていたが耳がキーンと鳴っていて何も聞こえなかった。
その日から、父は帰ってこなくなって母は音楽を嫌いになって私は日常的に殴られるようになった。
成長した今なら分かる。父は売れないバンドマンをやっていて母はそんな父に病的に惚れていた。けれど父は浮気をして私達を捨てて出て行った。
その怒りを母はすべて私にぶつけた。だけど、私が居れば父がいつか帰ってくると信じていた母は私を捨てれずにいて、ただ年月が過ぎていった。
そんな長い時の中で父はいつの間にか少し名の知れたバンドマンになっていて、今月号の雑誌の隅に結婚のことが書かれていた。それを見て帰ってくると信じていた母は私を…。
どうやら私の人生は他人に振り回されたどうしようもない人生だったようだ。
今更悲しんだってしょうがないかもしれないが、このどうしようもない悲しみと怒りはどうすればいいのだろう。
死にたくなかったし、母親に殺されたくなかった。もっと人生を楽しみたかった。
どうしようもない。本当に、どうしようもない。
どれだけ憎んでも私は死んでしまったのだから。
(…ああ)
そう諦めながらも、私の心の奥底には一つの願いがある。
(死にたくないなぁ)
もう死んでしまった後にそう願っても意味などないというのに。
(どうせなら)
私を殺した母が出来るだけ苦しみますように。
私の人生最後の想いと願いはろくでもないものだった。
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