チチデカ先生の受難

タヌキング

π

私の名前は山本 早苗(やまもと さなえ)。大学の教育学部を出て高校教師として高校に赴任したばかりの女である。

いきなり高校一年生を受け持つことになったのだが、教室での自己紹介中に事件は起きた。一人の男子生徒が私の胸を揉もうと突進して、私の胸に手を伸ばして来たのである。

合気道の心得がある私は、咄嗟に突進して来た男子生徒を触れずに投げ飛ばし、天井に叩きつけた。これは体罰なのか?正当防衛なのか?新任の私には判断しかねる。

幸いにも男子生徒は無傷だったので、放課後に生徒指導室にそこ子を呼んで話をすることになった。

自分の胸を揉もうとした男と密室で二人っきりというのも、頭のアラートが鳴りっぱなしだが、高校教師になったのだから多少のリスクは承知のうえで生徒と向き合わねばならぬだろう。


「それで君はどうして私の胸を揉もうとしたんだ?」


生徒指導室の狭い部屋で机を挟んで向かい合う私と、私の胸を揉もうとした男子生徒の最上 茂見男(さいじょう もみお)君。茂見男君は、まだ幼い外見をしており、童顔で体も小さい。こんな子が私の胸を揉もうとする凶行に至ったのか?その訳を私は知りたかった。


「その前に一つ良いですか?」


「なんだい?茂見男君。」


「先生の胸はかなり豊満であり、もう胸と呼ぶには収まりが付かないと思うのです。爆乳だと訂正してください。」


思わぬ指摘である。確かに私の胸は異常な程に発達しており、私自身、爆乳と呼んでも良いレベルだと思っている。ただ大っぴらに爆乳だと誇示するのも品が無い。だから胸と表現したというのに、この男子生徒は本当に野暮である。


「その訂正は必要かね?一見すると君がふざけているともとれるが。」


「いえ、ふざけてなどいません。爆乳は爆乳です。先生が自身の胸を爆乳だとおっしゃらない限り、私は貝の様に口を閉ざし、黙秘したいと思っているのです。」


「はぁー。」


溜息の漏れる私。何をバカバカしいことをこの子は言っているのだろう?今の子は教育するのが難しいと聞いたが、正にこの子が、その最たるものでは無いだろうか?

とにかく黙秘されては困るので、私の方が折れることにした。


「分かった。私の胸は爆乳だ。今はそれで良い。今の時間だけ爆乳と呼んでいい。だが明日から私の胸ことを爆乳だと君が言うのであれば、本気で君を投げ飛ばす。また無傷でいれるとは思わないことだな。」


「わ、分かりました。」


体を震わせて分かりやすく怖がっている茂見男君。この辺は高校一年生らしいじゃないか。


「それでは本題に入ろう。君は何で私の胸・・・いや爆乳を揉もうとしたんだ?」


ただ単に性的欲情から来る行動なのか?それとも別の深いワケがあるのか?興味が尽きない。

今、茂見男君から真実が告げられる。


「実は僕、お母さんの爆乳を揉むと心が落ち着く体質でして。小学五年生ぐらいまで母の爆乳を揉んでいたんです。」


「ほうほう。」


ほうほうと言いながら、私は若干引いていた。小学五年生と言えば、物の分別も社会の在り方も見えてくる年頃である。それでお母さんの胸を揉んでいたとは、多様化の時代と言えども驚きは隠せない。


「でもお母さんは変わってしまった。爆乳が垂れてきたんです。元の張りのある立派な爆乳も、垂れてしまえば魅力はありません。まぁ、僕の個人的な意見ではありますが。垂れた爆乳に揉む価値は無いのです。」


「・・・へぇ。」


良い顔で良いことを言った感を出すんじゃない。全国の垂れ乳の女性に謝れ。


「心の安息を失った僕は、抜け殻の様な人生を送ってきました。何を食べても味はしないし、何をしてても楽しくない。そんな時、アナタが僕の前に現れたんですよ。山本先生。アナタの爆乳は私の母の全盛期と比べても遜色がない、立派な爆乳だ。だから僕は頭で考えるよりも先に、本能的にアナタの爆乳を求めてしまった。ゆえにアナタの御立派に手を伸ばしてしまった・・・そういう次第です。やましい気持ちなんて微塵もありませんでした。」


「なるほどね。だが本当に微塵も無かったのかい?」


「はい、全く。ただ心を落ち着けたかっただけです。」


一点の曇りもない眼で、自信満々にそう言い放つ茂見男君。どうやら彼は本当にやましい気持ちが無かったらしい。私の爆乳を揉もうとした男でやましい気持ちが無かった男が、未だかつて居ただろうか?

大学に入りたての時に付き合った男は、別れ際に私にこう言った。


「お前が爆乳だから付き合ったけど、やっぱり自分の手のひらに収まるぐらいが丁度良いな。」


爆乳に惹かれたくせに扱いきれないと分かると見切りをつける。そんな男の失礼な態度に腹が立って涙が止まらなかった。

それがトラウマになり、それ以降男性とのお付き合いはしていないのだ。もしかすると、これから先もそういうことは無いのかもしれない。

だが目の前に現れた稀有な少年に私は一つの光明を見出した。生徒指導などしている場合じゃない。この質問をしてみなくては。


「爆乳は意外と揉み辛いぞ。それでも君は爆乳を揉みたいのか?」


私のこの問いに茂見男君はキリっとした顔でこう答えた。


「愚問ですね。登山家は高い山があれば、どんな手を使っても登るでしょう。それと一緒ですよ。爆乳を揉むのが困難であれば、それをどう揉むのか思案する。その過程すら楽しむのが真の漢なのです。私はそういう漢でありたいのです。」


“トゥンク”


あまりに茂見男君が格好良く見えて、胸がトゥンクしてしまった。


「わ、分かった。茂見男君、君はもう帰って良いから、気を付けて帰りたまえ。」


「はい、失礼します。」


茂見男君はそう言って立ち上がり部屋を出て行ったが、部屋を出る際にチラリと私の胸を見て「諦めませんから‼」と力強く言って退出した姿が私の網膜に焼き付いた。

私は恋をしてしまったのだろうか?一般的に先生と生徒の恋は禁止されているが、このままだとエロ同人みたいな展開になるのも時間の問題なのかもしれない。









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チチデカ先生の受難 タヌキング @kibamusi

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