七、動揺〈二〉
(らしくない……)
とても取り乱してしまった。しかも、弟弟子に対して怖がらせるようなことを……。
きっと突然師兄に詰め寄られ、困惑していたことだろう。
座学の後、
「
やる気のない、怠惰な弟弟子というくらいでむしろあまり良く思っていなかった。
しかし、昨夜、
「君は、あの仙人様なのか……?」
それは、
◇◇◇
あれは、
ある日、当時十六歳の
その類稀なる資質から、自然と霊気を大量に取り込んでしまったのだろう。
そして、その巨大に膨れ上がった霊力に身体が耐えきれず、
その時、まだ微かに意識の残っていた
苦しみに震える瞼を少し持ち上げると、自分よりも幾分か歳上に見える青年が、
青年は
「だれ……?」
(綺麗な人だけど、少しこわい……)
彼の纏う独特なオーラとひしひしと伝わってくる強い霊力に、「仙人様だろうか」と苓舜は思う。
「あっ……」
青年は呆然とする
そして何かを唱えた後、
「んっ!?」
やがて数秒が経ち、青年は
青年は濡れて艶めいた唇をぺろりと舐めて、口角を上げた。
対して、
やがて、体内で暴走していた霊力が鎮まり、身体が軽くなったことに気がつく。
俺が回復したのは、あの口付けのおかげだ。
「仙人様、待ってくださいっ! な、なにかお礼を……」
「ははっ、俺が仙人か! ふふ、たしかに、仙ではあるな」
すると、青年は肩を揺らして、おかしげな笑い声をあげる。
そして、
「おまえはいい才を持っている。くく、果実は熟してこそだ。お礼とやらは、おまえが仙郷に入り、修仙者となった後にでもいただこう」
青年は艶めかしく笑って見せた。
残された
◇◇◇
そう思う一方で、
昨夜、書斎で
それが
=
これは幻覚などではない。瞬時に"
ずっと会いたかった人。
=
命を助けてくれた恩、口付けされた衝撃、ニヤリと笑う綺麗な顔、微かな甘い匂い……。
あの出会いが、今の
「
考えてみれば、二人の雰囲気は似ているようにも感じられるが、その力量が違いすぎる。
あの仙人様は他人の霊力を抑え込めるほどの強大な力を持っていた。
たとえ彼が仙人ではなかったとしても、初めて出会った約百年前の時点で、少なくとも百数十年の修行を積んでいたはず。
一方、
さらに、彼は半年前に人間界から仙郷に移ってきたので、実年齢と容姿年齢が一致しているはず。たしか、
二人が同一人物なら、この矛盾はありえない。それに、
なのに。先程、
やっと、会えた。やっと、あの時のお礼ができる。恩を返すことができる。そして……。
あの時、
かの青年に対するどうしようもない熱を、ずっと燻らせてきたのだ。
それはもう、今にも泣いてしまいそうなくらいに嬉しかった。
けれど、どうしても確信が持てない。決定打に欠けるのである。
なにかが足りないと、
「……確かめなければ」
修行を通して、
何か目的があって
命の恩人かもしれない者に対して、弟弟子のように接するのは少し気が引けるが……。
しかし、せっかく会えたのだ。この機会をみすみす逃すわけにはいかない。
「たとえ、本当に仙人様だったとしても……私のことを覚えてくれているのだろうか」
もしも、彼が忘れてしまっていたら。
「……それでもいい」
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