六、動揺〈一〉
翌朝、
いや、早起きというよりも、全然眠れなかったという方が正しいか。寝不足はもはや日常と化しているので、特段辛くはない。
「
「
昨夜は無礼なことをしてしまった。今日こそ名誉挽回に勤しむべきだろう。
「ふん、大した意気込みだな。昨日まで毎日怠そうにしてたってのに」
「まぁまぁ、昔の俺とは違うんだよ」
◇◇◇
昨日と同じ一番前の右側の席について、
一度だけ目が合ったが、なんとなく気まずさを感じてしまい、すぐに目を逸らしてしまった。
「
そのまま講義が始まった。
(ほほう……大体は俺が考えてた内容と一緒だな。霊力の吸収法と修行段階、そして
「君たちは皆、まだ練気期の段階だ。座禅を組み、霊気を吸収して霊力を蓄えることが修行の主軸である」
(
そういえば、『桔梗仙郷伝』ではメインカップルの他にも数組のカップリングを作っているが、
とはいえ、
(たしか、こんな感じだったな……)
"座学を真面目に受ける"という覚悟をすっかり忘れてしまっている
そして、前世の記憶を手繰り寄せた。
◇
このままでは霊力が身体を裂き、死に至ってしまう……そんな危険な状況だ。
男は苦しむ苓舜を救うために、
すると、
その後、
(そうだったそうだった。こんな感じの設定を考えていたんだ……)
純粋無垢な
しかし、男は名乗らなかったために、
そうして、
などという、皆(主に
当時の
(最終的にはどうなったんだっけ……)
この設定を考えていた時、
これは困った。
一番肝心な
(まぁでも、これはまだ先の話で小出しにする予定だったから……)
原作で、=
ということは、この世界の
(それじゃあ、今から
加えて、
好感度を上げて、
(少々不純な動機だけど……せっかくBL小説に転生したんだから、俺だって好みのイケメンとイチャイチャしてもいいんじゃない!? カミサマもそう思うだろう!?)
そんなことを考えていると、突然、左隣からコツンと頭を小突かれる。
「いだっ! なに!?」
「
「
=
「え、えっ!?」
いつの間にか座学は終わり、書院には
「うそっ!? いつの間に!?」
空は茜色に染まり、はやくも月影がうっすらと見える。
(ううっ、やばい、好感度上げるどころか、絶対下がったじゃん……俺のバカ!)
昨夜、
「
「あいつ、どうしたんだ……?」
残された
◇◇◇
「はぁ……はぁっ……
「
「ひっ!?」
後ろから名を呼ばれ手振り返ると、そこには前方に居るはずの
「しっ、ししし師兄!?!?」
「君の探している"
(呼び捨てにしたのを聞かれていたのか……。というか、どうして俺の後ろに……!?)
「師兄……その、昨日はすみません……」
「
「師兄……」
どうやらその言葉通り、
しかし、どうも様子がおかしい。
(なんか、動揺してる……?)
「
「へっ?」
(え!? 何この状況!?
「私はずっとあなたを探してたんだ! あなたに会うために仙郷に入り、あなたに追いつくために修行を積んできた……」
作中では
(
しかも、
(
「師兄っ、人違いじゃないでしょうか……師兄のいう仙人様は俺よりもずっと歳上なのでは……? 第一、俺はまだまだ仙人には程遠いし……」
「……っ、自分でもおかしいとは思ってるんだ。君は数ヶ月前まで修仙したこともなかったのだから、私の探しているあの方であるはずがない……だが、」
「すまない、私がどうかしていた……」
「師兄……?」
「えっ、は……!?」
突然距離を詰めて迫られて壁ドンされたのに加えて、
(ちょっ、ちょっと待って! 「だが……」の後はなに!? もっと肝心なところを教えて……!!)
「あーもうっ!
「どうやって
(仙人様って誰なんだ……!? 俺、そんなやつ知らないんだけど!)
ここは『桔梗仙郷伝』の世界であるが、登場人物がそれぞれ生命と意思を持って生きている。小説に描かれてあるのは、その生のごく一部分にすぎない。
どうやらこの世界には、作者である宵珉も知らない事情がたくさんあるらしかった。
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