ゲーム大会――1

 四月最終週の日曜日、午前。


 リビングダイニングに集まった俺たちは、並んでソファに座り、スマートテレビで動画を眺めていた。


 そんななか、ふと思い立つ。


「なんかイベントっぽいことがしたいな」

「唐突ね」

「まあ、いま思いついたことだし」


 目をパチクリさせる美風に苦笑を返し、三人に理由を伝える。


「みんなが集まっているし、まとまった時間もあるだろ? せっかくだし、盛り上がることがしたいなって」

「たしかに、部活であたしがいなかったり、詩織がなにか調べ物をしていたりして、みんなで集まるのって意外に難しいのよね」

「だろ? だから、いまはちょうどいいと思ったんだ」

「なるほど。今日は家事を手分けして終わらせましたから、時間もありますね」

「消耗品が揃っているから買い出しに行く必要はないし、お昼ご飯の下ごしらえもすんでいる。蓮弥くんの言うとおり、ピッタリのタイミングだね」


 三人が納得の頷きを返す。三人とも俺の案に賛成のようだ。


 となると、次に考えるべきは――


「問題は、どんなイベントを開くかだなあ」

「でしたら、ゲーム大会などはいかがでしょうか?」


 腕組みして考えていると、詩織が提案してきた。


「覚えていますか? 昔、よくやりましたよね」

「もちろん覚えてるよ。懐かしいなあ」

「だね! あのころのわたし、病気がちであまり外に出られなかったから、みんなが来てくれるの嬉しかったよ」

「萌花のお父さんが作ってくれたお菓子を取り合ったりしたわよね。罰ゲームで、負けたひとが勝ったひとに譲るとか決めてさ」

「そうそう! それで、負けた美風がねたりしたよな」

「そういうことは思い出さなくていいの!」


 わちゃわちゃと騒ぎながら、俺たちはあのころに思いをはせる。


「じゃあ、ひさしぶりにゲーム大会するか」

「「「賛成!」」」


 ゲーム大会の開催が全員一致で決定したところで、「どうせならさ?」と美風が手を挙げた。


「昔みたいに、罰ゲームありにしない」

「いいですね。そのほうが盛り上がりそうです」

「だとしたら、どんな罰ゲームにする? お菓子の取り合いは、ちょっと子供っぽいと思うんだが……」

「だったら、夫婦っぽいことにしない?」

「「「夫婦っぽいこと?」」」


 萌花の意見に、俺、美風、詩織が首を傾げる。


「うん」と首肯して、萌花がモジモジしながら続けた。


「その……わたしたち、婚約したでしょ? だから」

「そ、そうだな。婚約したな」

「こ、婚約したわね」

「婚約しましたね」


 四人ともが頬を赤らめる。俺と美風は萌花と同じようにモジモジするが、詩織だけはわりと平気そうだった。


 好意を伝えたり伝えられたりする際の照れくささに対して、詩織は耐性があるように感じる。おそらく、甘えんぼうな性格が関係しているのだろう。照れくささよりも嬉しさのほうが勝るのだ。


 むずかゆい空気を切り替えるために、コホン、と咳払いする。


「罰ゲームの方向性は決まったけど……夫婦っぽい罰ゲームって、どんなのがあるだろう?」


 眉根を寄せながら考える。萌花と美風も、「「うーん……」」と頭を捻っていた。


「こういうのはどうでしょう?」


 俺たちが悩んでいると、詩織が人差し指を立てた。


「妻が最下位になったら、夫の好きなところをひとつあげて、夫が最下位になったら、妻の好きなところをひとつあげるんです」

「すごくリア充っぽい罰ゲームね」

「でも、たしかに夫婦っぽいよ!」


 美風が苦笑して、萌花が両手をグーにする。


「蓮弥さんはどう思いますか?」

「いいんじゃないか? 勝ったら嬉しいし、負けたら恥ずかしい。夫婦っぽくもあるし、ちょうどいい罰ゲームだと思うよ」

「美風さんと萌花さんはいかがです?」

「あたしは賛成」

「わたしもだよ!」


 詩織に振られ、俺、美風、萌花が賛成する。


 罰ゲームの内容も決まった。あとはどんなゲームで……ん?


 ふと疑問を覚え、俺は尋ねる。


「俺が最下位の場合ってさ? 三人のうち、誰の好きなところをあげればいいんだ? 一位になったひとのか?」

「いえ。わたしたち全員のです」

「そうね。それがいいわ」

「むしろ、それしかないよね」

「理不尽じゃね!?」


 返ってきたあんまりな答えに、目を丸くしてツッコんだ。


「みんなは俺ひとりの分なのに、俺だけ三人分って不公平だろ!」

「ですが、わたしは言いましたよ? 『夫』が最下位になったら、『妻』の好きなところをひとつあげると。蓮弥さんは『夫』で、わたしたちは『妻』ですよね?」

「な……っ!? さ、さてははかったな、詩織!」

「なんのことでしょう?」


 詩織がわざとらしくしらばっくれる。


 罰ゲームの内容が不公平だと詩織はわかっていた。だからこそ、『夫』・『妻』という表現をもちいて内容を説明したのだろう。俺を騙すために。


 そして俺は、詩織の策略にまんまとはまってしまったのだ。我ながら情けない。


 詩織がクスクスと笑みをこぼす。


「契約書にサインするときは、くれぐれも気をつけてくださいね?」

「チクショウ! ぐうの音も出ない!」


 おちょくられた俺は、台パンしたい気分だった。


 こんなしょうもないことに聡明さを発揮するなよ……頭脳の無駄遣いもはなはだしいぞ。


 内心で愚痴ぐちりながら、俺は抗戦する。


「異議を申し立てる! この罰ゲームは公平性を欠く!」

「では、公平に多数決をとりましょう。まず、この罰ゲームに問題がないと思うかたは挙手をお願いします」

「「問題ありませーん」」

「わたしも問題ないと思うので、この罰ゲームで決定ですね」

「理不尽じゃね!?」


 俺はまたしてもツッコんだ。


『夫』である俺はひとり。対して、『妻』であるみんなは三人。多数決をとれば、妻側が勝つに決まっている。


 しかし、そのことに文句をつけても無意味だろう。三人が手を組んでいる現状、俺に勝ち目などないのだ。


「よーし、勝つぞー!」

俄然がぜん、やる気が湧いてきました」

「まあ、ゲームだし? 本気でやらないと面白くないし?」


 うなだれる俺とは対照的に、三人は意気揚々としていた。

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