委員会――2

 問題なく、俺も詩織も図書委員になることができた。


 放課後、早速委員会の集まりがあるとのことで、俺と詩織は一緒に図書室へ向かう。


 図書室に入ると、室内にいるひとはまばらだった。


「あんまりいないな」

「おそらく、わたしたちが来るのが早かったのでしょう」


 俺たちが顔を見合わせていると、上級生とおぼしき女子生徒が声をかけてくる。


「みんなが集まったらはじめるから、それまで待っててくれる?」

「「わかりました」」


 先輩の言いつけに従って、俺たちはほかのひとがいないスペースを選んで席に座る。


 ほかの委員を待ちながら談笑していると、先ほどの先輩が俺たちに近づいてきた。


 なにか用事だろうか? と目をしばたたかせていると、どこかわくわくした様子で先輩が尋ねてくる。


「ねえねえ。もしかして、きみたちは付き合ってるの?」


「へっ!?」と声を上げそうになり、すんでの所で堪える。俺たちは付き合っているどころか婚約しているが、学校では『仲のいい幼なじみ』で通しているからだ。


「ど、どうして、そう思うんですか?」

「だって、こんなに席が空いてるのに、わざわざ誰もいないところを選んでるし、しかも、ふたりで隣り合って座ってるし」

「な、仲がいいからですよ」

「けど、ふたりとも、すごくいい雰囲気でお喋りしてるじゃない? 友達より、もっと親密な感じがする」


 誤魔化ごまかしても誤魔化しきれない。次々と先輩に図星をつかれて、俺は平常心を保つのに精一杯だ。


 動揺が顔に出ないように努めるなか、先輩がズイッと身を乗り出してきた。


「わたし、恋愛マンガとか大好きなの! よかったら、いつもどんなふうにイチャついてるのか、教えてくれないかな?」


 わくわくしているように見えたのは、好奇心ゆえらしい。恋愛マンガ好きのこの先輩は、二次元のカップルにも興味津々のようだ。


 先輩にグイグイ迫られて、俺と詩織はアイコンタクトで相談する。


 ――どうする、詩織? 当然、俺たちの仲を明かすわけにはいかないけれど……。

 ――ここはやはり、『幼なじみだから』作戦で乗り切りましょう。

 ――その作戦で大丈夫か? いままで通じたことないぞ?

 ――しかし、ほかに手が思いつきますか?

 ――いや、思いつかない。

 ――でしたら、この作戦に頼るほかないですよ。

 ――そうなっちゃうか……しかたない。ダメ元でいってみるか。


 俺と詩織は頷き合い、ふたりして口を開いた。


「別に付き合ってないですよ」

「え? そうには見えないけど……」

「わたしたちは幼なじみなので、特別仲がいいのです」

「そ、そうなの?」

「「はい」」


 揃って首肯しゅこうすると、先輩は「な、なるほど?」と首を捻る。


 まったく納得していないみたいだが、一応は乗り切れたみたいだった。





 しばらく待っていると生徒が集まってきて、委員会が開かれた。最初の委員会ということで、その目的は、仕事内容の説明と、役割の選択らしい。


 説明によると、図書委員の仕事はかなり多いので、三つの班にわかれて仕事をするとのことだった。


 本の貸出と返却の受付、本棚の整理や、返却本を棚に戻す作業などを行う、カウンター班。


 読書会・映写会といったイベントの、企画・運営を行う、企画班。


 小冊子・ポスターの作成、ホームページの更新を行う、広報班。


 以上の三つが図書委員会の班だ。


 そのなかから、俺と詩織はカウンター班を選んだ。


 カウンター班の仕事は二人一組で行うらしいので、俺と詩織はふたりきりになれる。せっかく一緒に仕事をするなら、ふたりきりがいい。カウンター班を選んだ動機は、ちょっとだけよこしまなものだった。


 班決めが終わったあとは、各班で集まることになった。さらに詳しい説明を受けたり、仕事の担当を決めたりするためだ。


「カウンター班は、こっちに集まってー」


 カウンター班を仕切るのは、先ほどの先輩だ。


 カウンター班の仕事内容の詳細を説明したあと、先輩が切り出す。


「じゃあ、次はそれぞれが担当する曜日を決めようか」


 カウンター班の仕事は、曜日毎にメンバーが替わる担当制だ。


 どの曜日にするか考える生徒たちにまじり、俺と詩織も相談する。


「どの曜日がいい? 詩織に合わせるよ」

「月曜日はどうでしょう?」

「OK」


 俺たちが決めたところで、先輩がいてきた。


「じゃあ、まずは月曜日を希望するひとー」

「「はい」」


 俺と詩織はふたりして手を挙げる。


 先輩がキョトンとした。


「えーと……さっきの話に戻るけどさ? きみたち、やっぱり付き合ってるよね?」

「「付き合ってません」」

「けど、同じ曜日を希望するなんて、流石さすがに仲がよすぎない?」

「仲がいいのは当然ですよ」

「なにしろ、わたしたちは幼なじみなのですから」

「……ま、まっさかー。そんなマンガみたいな関係、あるはず――」

「いえ、あります」

「わたしたちがそうです」


 先輩が疑ってくるが、俺たちは構わずに押し通す。


 何度も訂正していると、次第に先輩が戸惑ってきた。


「え? も、もしかして、わたしが間違ってるのかな?」


 先輩が頭を抱える。もしマンガなら、彼女の目はグルグルと回っていたことだろう。


 俺たちと先輩のやり取りを見聞きしていた周りの生徒たちも、俺たちの関係性がつかめず、混乱している様子だった。


 彼ら、彼女らに気づかれないよう、詩織がこっそりと耳打ちしてくる。


(以前に言ったでしょう? 嘘も一〇〇回つけば信じてもらえるものです)


 表情を変えないまま、詩織が「ドヤァ」と口にした。


 無表情でドヤる姿が愛らしくて、俺は周りの目を盗み、詩織の頭をぽんぽんしてあげた。

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