重婚プロポーズ――4

「できないって……どうして?」


 怪訝けげんそうに美風が首を傾げる。


 三人の期待を裏切ることに胸を痛めながら、俺は打ち明けた。


「去年、全国大会の準決勝前、練習中にケガしてさ」

「去年の全国大会……準決勝で、清泉が敗れた大会のこと?」


「ああ」と、俺は力ない声で応じる。俺の落ち込みようが心配になったのか、萌花が眉を『八』の字にしていてきた。


「どんなケガだったの?」

「……右膝の靱帯断裂」


 三人が息をのんだ。


「選手生命にかかわるほどの大怪我じゃない!」

「ああ。体ができてないときに負ったケガだから、余計に悪かったみたいでさ。治りはしたけど、後遺症が出てしまったんだ」


 俺は重い溜息をつく。


「右膝に負荷がかかると痛みが走る。激しい運動ならなおさらだ。いまの俺には、バスケは無理なんだよ」


 かける言葉が見つからないのか、三人が押し黙る。


 罪悪感でいっぱいになりながら、俺は頭を下げた。


「失望させて悪い」


 実績を上げられないことよりも、バスケができないことよりも、三人をがっかりさせてしまうことのほうが遙かに辛い。


 頭を下げているから、三人の落ち込む顔を見ないで済む――そんな、泣きたくなるくらい情けないことを思ってしまった。


 鬱々うつうつとした気分になっていると、思いも寄らない言葉が返ってきた。


「……なに謝ってるのよ」

「え?」


 若干の苛立ちが混じった美風の声。


 顔を上げると、美風は半眼で俺を睨んでいた。


 失望を通り越して、怒らせてしまったか?


 俺が不安がるなか、美風が続ける。


「『失望させて悪い』? ふざけたこと言わないで」

「美風ちゃんの言うとおりだよ」


 美風だけじゃなく萌花も、頬を膨らませて不満を露わにしている。


「わたしたちが蓮弥くんを責めると思ってるの?」

「いや……だって、みんなの期待に応えられないし……」

のことで、失望なんてするはずない!」


 叫ぶような萌花の主張に、雷に打たれた思いがした。


 言葉もなく呆けていると、詩織が静かな声でいてきた。


「蓮弥さん。わたしたちは、離れてからもずっと、あなたを想い続けていました。正直、自分でも重い女だと思います。そんなわたしたちが、あなたに失望するはずがないでしょう?」

「詩織……」

「わたしたちの愛を甘く見ないで、蓮弥くん。わたしたちにとっては、蓮弥くんがバスケで実績を上げられないことよりも、蓮弥くんのケガのほうが、ずっとずっとず~~っと心配なの!」

「萌花……」

「ひとりで悩まなくていいのよ、蓮弥。みんなで支え合うの。あたしたちは家族になるんだから」

「美風……」


 それは救いだった。


 三人の思いやりが染みこんでくる。


 胸が温もりで満たされる。


 鬱々とした気分が、光に照らされるように消えていく。


 俺の不安は、てんで的外れだったみたいだ。萌花の言うとおり、三人の愛を甘く見ていたらしい。


 本当に、俺は大馬鹿野郎だな。


 自虐しながらも、俺の口元には笑みが浮かんでいた。


 三人の姿が涙で滲むなか、俺は伝える。


「ありがとう。みんながいてくれてよかったって、心から思うよ」





 その日の夜。俺たちは出前をとり、再会と婚約を祝った。


 あんなにも楽しい食事は、生まれてはじめてだった。

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