Act.10 亀裂と入門

 『蔓魔畏つるまい公園』での戦いから翌日。アタシは『妖廼』と『暗魔』のお見舞いと謝罪の為に、『中央病院』に来ていた。

 病院の先生曰く、『暗魔』は本来ならば、集中治療室ICUに送られる筈だったのだが、彼の傷は既に殆どが塞がっていて本人も非常に元気だったので、普通の病室に移動となり、退院も来週にはできるとの事だ。

 『妖廼』に関しては、そもそもアタシが最小限の力で意識を奪っただけなので怪我はなく、一応との事で検査だけを済ませ、今日中に退院する予定だ。


 アタシは『暗魔』と『妖廼』の面会時間になるまでの間、病院の庭にある喫煙BOXで携帯水煙草vapeを吸って待っていた。『暗魔』との面会時間はまだ少し先だが、一服を終え、喉が渇いたアタシはコーヒーでも買いに行こうと思って喫煙BOXを出たとこに、丁度病院内に向かう『幽奈』と出くわした。


「あら?血穢。こんなところにいらしたのね」


「あぁ幽奈、久しぶり。最近全然連絡付かなかったけど、『元気』にしてたか?」


「えぇ…まぁ…」


 幽奈はそう言って曖昧な返事をする。彼女の顔をよく見ると、目にうっすらとくまを作っており、頬も少し痩せこけるてる様に見えた。恐らく、『血蒼』の護衛任務での心労が祟っているのだろう。それに『昨夜の件』もあったのだ、『彼女』には心配をさせてばかりだ。


「『先生』から事のあらましは大体聞きましたが…。それより、『貴方』の方こそ大丈夫ですの?その…『左腕』は?」


 『戮さん』と同じような『呪布具』を巻いてあるアタシの左腕を見ながら彼女が言う。アタシはこれ以上彼女に心配をかけないように、自身の左腕を肩でグルグルと回しながらちょっとだけ大げさに『問題無い』と彼女に伝えた。


「あぁ、これに関して全然大丈夫だ!痛みも全然無いしな!!ちょっと動かし辛くなっただけさ!」


「…。」


 空元気で誤魔化そうとするアタシに対して、なんだか微妙そうな顔する『幽奈』をを見てられなくなり、アタシは話題を無理理やり変えようとする。


「それより幽奈、なんでここに?アタシや妖廼がって『師匠』から聞いてたんだろ?」


「えぇ、それで『妖廼』を病院から連れて来いと『先生』が…。と、これからの事で話があるとかなんとか…」


「…って『妖廼』がって言ってたやつか?」


「まさにですわ…。ハァ、どうしてワタクシの周りの人間はこうも自分勝手な…」


 を思い出したのか、幽奈は自身の頭を抱えながら項垂れる。…しまったな。話題を明るいものに変えようと思ったのにこれじゃあだ…。

 普段であれば、軽口を言い合う感じで済む事なのだが

 アタシは気まずくなったこの空気どうしたものかと考えている時、丁度『妖廼』が院の入り口から出てきて、こちらに向かって歩いてきた。その表情は…伺えない…。

 いつものように笑顔でアタシ達に駆け寄って来ないあたり、少なくとも機嫌は良くないみたいだ。

 


 アタシは『妖廼かのじょ』に昨日の事を謝る為に、いの一番に彼女に駆け寄り謝罪しようとする。


「妖廼。昨日はごめん!お前の気持ちを考えないで勝手な…」


 アタシが謝罪の言葉を伝える途中、『妖廼かのじょ』はと言わんばかりに、片手でアタシの左肩を抑える。驚いたアタシは、先ほどまで伺えなかった彼女の表情をよく見てみると、彼女は少し悲しそうで、それでいて寂しそうな顔をしていた…。


「…。」


 彼女は無言のまま、アタシの左肩に添えた手を強く押した。…『退いて』というをはっきりと乗せながら…。

 自分のせいではあるものの、傷ついたショックで立ち尽くすアタシの横を、彼女は『他人』の様に通り過ぎようとした…。


 その有様を遠くで見ていた幽奈がすぐさまアタシ達に近づき、妖廼に指摘の言葉を告げた。


「妖廼。確かに今回の件は『血穢』が悪いですし、は十分に分かりますけれども。…誠意ある謝罪をする相手に対してその『態度』はどうかと思いますわよ」


 妖廼は幽奈の言葉でさえも、そのまま無視をしてそのまま歩き去ってゆく。アタシはいたたまれない申し訳無さの気持ちでいっぱいになり、その場で俯いてしまう。

 そんなアタシを見た幽奈が励ましの言葉をかけてくれる。…本当に彼女には世話になりっぱなしだ。


「ハァ、血穢…。のよくある喧嘩で、一々へこたれてる場合ではありませんわよ?」


「どうせワタクシ達は、これからもよくするんですから…フフフ」


「幽奈。…ありがとう」


は『妖廼』に伝えませんとね♪…が、ワタクシが貴方達の仲を取り持ってあげますから、とりあえず今は、『暗魔』さんの『お見舞い』に行きなさいな。…これから彼に『修行』を付けて貰うのでしょう?」


「あぁ、あの人に『修行』を付けて貰って、アタシはもっと強くならなくちゃならない。『夜兎アタシ達』の因縁に決着をつける為に!」


「…『血蒼』と『妖廼』の事は。…でも、このは高く付きますわよ?血穢」


 気付けば、幽奈が少しは軽口が言えるくらいには元気なってる様に見えるが、多分これは彼女の空元気何だろう…。でもこれ以上互いの気分を落とす訳にもいかないし、アタシも幽奈かのじょに続く様に冗談ジョークで返した。


「へっ、じゃあ『倶楽部 玻璃重クラブ HARiE』のバアムクーヘンでいいか?」


「フフフ、貴方にしては上出来な『案』ですわね♪…でしたら、全部片付けたあとお茶にしましょうか。…『みんな』で♪」


「あぁ、そうだな」


「フフ、ではワタクシはもう行きますわね。…が迷子になる前に。…それでは御機嫌よう、血穢」


「おう、またな幽奈!」


 アタシの別れの言葉に、背を向けながら手をひらひら振って答えながら、妖廼を追っていった幽奈を見届けたあと、時計を確認したら丁度『暗魔』との面会時間だったのでアタシは彼の病室に向かう事にした。






















 …申し訳ないけど、は一旦頼んだぜ幽奈!アタシは早く『暗魔おじいちゃん』に師事して強くならねぇと!!

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