血煙壊道~BLOODLiNE~

儚之シーシャ

第一章 『血脈葬承』~UNDERSTANDiNG~

Act.1 血の穢れ

 おまえ自身の血管の中に、腐って泡を立てている沼の血が流れているのではないか。だからお前は醜く蛙の鳴き声をあげ、誹謗ばかりしているのだ。

            フリードリヒ・ニーチェ




「…永遠に寝るものは死せるにあらず、奇しき永劫ののちには死もまた死すべし…」


 今しがた心の臓腑を貫いた醜い化け物吸血鬼が、まるでの様な低くしわ涸れた声で、最後の力を振り絞り唱えた祈りの言葉を聴きながら、アタシは突き刺した妖刀の刃をさらにねじ込み、に止めを刺した。

 蝙蝠の様であり、狼の様でもあり、でもあった形容しがたい醜い化け物吸血鬼は、糸が切れたように力尽き、そのまま息絶えた。


「辞世の句のつもりか?薄汚ぇ化け物の分際で人間の真似事しやがって…気持ち悪りぃ」 


 の様な舞い散る灰に変わりつつある異形吸血鬼の屍骸を睨みつけ、鼻の奥にこびり付く、ひどく腐敗した血の匂いと、地獄の底のような硫黄の混ざった匂いに顔を顰めながら、アタシは悪辣にそう言い捨てた。

 刀を引き抜き、流れ下段の残心からの柄を叩く古流の転柄血振を行う。精神的な不浄を払う、の意味も、もちろんあるのだが、それ以上にと、妖刀この子が食餌の終わりの理解せず、使い手ごと『血酔の呪い』に囚われる…、と修行時代に教わった…。

 昔、ケツが青かった頃に一度やらかして、今現在も痛い目を見ているのだが…まぁそれは今度に話すとしよう。


 アタシの名前は『蛭蠱 血穢ひるこ ちえ』。見ての通りの吸血鬼狩りヴァンパイアハンターだ。

 唯一の家族である義父を弄び、惨たらしく殺した化け物吸血鬼への復讐と、この腐れ切ったふざけた世界で生きていくために、選択した。

 今は街の郊外にある、とある廃寺付近の森林の中、アタシは絶賛仕事中吸血鬼狩りだ。今夜もこうやって醜い化け物をぶち殺してる。

 

 アタシは周りに脅威の気配を感じないのを確認して、アタシは血振を済ませたを仕込み杖の鞘に納め、一息ついた。ポケットから携帯水煙草VAPEを取り出し、静かに一口吸う。口内に広がるを一通り楽しんでから、口からを大きく吐きだし、酷く高揚した精神と肉体を落ち着かせ、平静を取り戻す。


 今夜の仕事狩りはこれでお仕舞い。今夜ぶち殺した連中は全員、とは関係ない共だった…。

 現在、時刻として、3時半過ぎ…。夜明けまではまだ少しあるが、今夜はもう帰ろう。今夜だけで6件、狩った数で言えば十数体はいたかな?さすがに疲れた。これ以上の狩りはリスクが高くなる。

 

 携帯端末を取り出し、組合の専用アプリを開き、最低限の報告をしようとした矢先、その端末がけたたましくその身を震わせた。


「…ったく、タイミングっ…!」


 嫌な予感がするのは当然としても、電話に出ないわけにもいかず、苛立ちながら、電話先を確認する。『灯月の家』、アタシの所属する異形狩り専門の組合。その中でアタシは特にに特化した部門に所属し、活動している。


「なんだよ。残業のお願いか!?」


 アタシは苛立ちを隠さぬまま気だるげに電話に出た。


「血穢さん!!すいません!!今すぐ御悪棲おおす支部に戻って下さい!!

 古強者エルダー級のV《吸血鬼》が支部に襲撃してきてっ!支部長が人質にっ!!

 今すぐ血穢さんを出せと言ってて…キャアァァ!!」


「おい!!大丈夫か!?…おい!?」


 返事は無く、電話はそこで切れた。悪い予感は斜め上の方向で的中した、今すぐ支部に戻らねぇと。

 は後ろで待機してた公権力の奴らに押し付けるか。

 そんな事を考えていると、後ろから聞きなれた声がかかる。


「何かあったみてぇだな。ここの後片づけはやっといてやるから、早く行きな。」


りくさ…出禍堂でかどう警部。居たんですか…!?」


 義父の後輩で、現在は公安の秘密警察を担っている『出禍堂 戮』でかどう りく。義父を失い、天涯孤独となったアタシを一時期面倒を見てくれたこともある、アタシの恩人の一人…。どうやら、狩りの終わりを察知し、ここに駆け付けたようだ…。まさか今回の件で、後方待機してた警察の中に交じってたと思わなかったが…。


「今更、変にかしこまるな。あと公安に刑事はいねぇよ」


「すいません、恩に着ます。この借りはすぐにでも」


「…いいから早く行け」


 彼に会釈し急ぎ早にその場を後にする。

 いつもいつも世話になりっぱなしだな…今度埋め合わせにご飯でも誘わないと…。

 そんな事を考えながら駐車場に向かい、素早く荷物を纏め、アタシの最高の相棒である、深紅の血の様な鮮やかな違法改造二輪KaWaSaKi NiNJa666に跨る。


 アタシはエンジンを思いきり吹かし、アクセル全開で飛び出す、峠をと共に全速力で駆け、享楽と陰惨を煮詰めた、吐き気を催す汚泥の様なアタシの故郷『龍劫禍街りゅうこうかがい』に向かった。




「…にしても私の事を知ってる奴?これはいわゆるってやつかもなぁ。支部の皆には悪りぃがゾクゾクしてきたぜ!!」

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