最終日 part2



 映画村での死合を終えた彼と彼女ら一行は、その後は普通に食べ歩きやパワースポットなどを巡り、京都最終日を存分に堪能した。


 そして、終わりというのはきてしまうもので、旅館に帰ってきてしまった。


「・・あぁ...あと、一週間は満喫したいなぁー」


「ふふっ」


 ただ、ソフィアは京都を十二分に満喫したものの、あまりの雰囲気の良さにそう嘆いており、久留米は保護者のような目で微笑ましく彼女を眺めていた。


「...まぁ、落ち着くのは確かだな。」


日本人の遺伝子に刻まれてるのだろうか、確かに京都の街の雰囲気というか空気感がどこか懐かしく、ホッと心が落ち着くような感覚を覚えていた。


「そうよね!なんか、気分が落ち着くというか...いいわよね...」


ソフィアは彼の言葉に呼応しながら、旅館から見える京都の街を一望できる景色に耽っていた。


「ふふっ、今度なーちゃんとも一緒に京都きましょ!」


旅行の終わりが近いことから、少し寂しそうな顔をしていた彼女に気を利かせたのか、久留米はそう言いながらソフィアを熱く抱擁していた。


「うわっ...っと...ふふっ...そうね。なーちゃんもだね。」


彼女の熱い抱擁には、もう慣れてしまったソフィアは更に久留米をあやすように頭を撫でていた。



そして、帰りの新幹線にて、十二分に京都を満喫したのは皆も同じようで、殆どの生徒が居眠りしていた。


「・・....。」


 無限に近い体力を持っている彼は、心地の良い疲労感に沈んでいる彼らを一瞥し、少し寂しさを覚えていた。


「...スゥ...むにゃ..むにゃ..」


すると、右肩の方から、心地の良い圧を感じ傍目で見ると、昨日あんなことがあったにも関わらず白木が無防備に寝顔を晒していた。


「...まぁ、悪くないか。」


 先までの寂しさは、白木によってものの数秒に覆された。



「ーー・・では、みなさん。お疲れ様です。まっすぐ家に帰るように。では、解散。」


 牽引の先生は皆疲れているだろうと、手短に締めの挨拶を済ませ東京駅で解散となった。


「...海道くんは、なにで帰るの?」


 携帯でウーバーを呼ぼうとしているところ、白木に話しかけられた。


「タクシー。白木は?」


「あー、お母さんが迎えにきてくれるんだ。海道くんも乗っていく?」


 どうやら帰りの手段に迷ってると思われたらしく、気を使わせてしまった。


「..白木ってどの辺だっけ」


仮にお願いするにしても、変に遠回りして貰うわけにもいかなかったため確認した。


「目黒だよー。」


「悪いが、遠回りになっちまう。遠慮させてもらう。」


 ご厚意とはいえ、そういう迷惑は申し訳ないので断ったが、しょぼんとしている白木の表情を見てしまい、一瞬で後悔した。


「そっか...あっ、じゃあまた学校でね!」


 すると、ちょうど迎えが来たようで別れを挨拶をして、行ってしまった。


「あぁ。」


まぁ、俺が断ったんだけどな...


さも、苦渋の結果みたいに思っていたが、断ったのは彼自身だった。


その後も、ウーバーを待つ傍ら人生で初めて見る外交車で帰っていくソフィアと青鷺を見送り、なぜか、一緒にいかなかった久留米が残っていた。


「・・一緒にいかないのか?」


「えぇ、少し方向が違うので...」


 図らずとも彼と同じ理由で残ったらしく、どこか近いものを感じた。


「そうか。久留米は俺の家と同じ方向か?」


「あー、はい。そうですね。」


彼女は左上に目を動かしつつ、前に行った彼の家の場所を想起していると、ここからの方向を思い描くと大体同じだったようだった。


「..おっ、来たか。迎えまだなら乗ってけ。」


 先生らもいるにせよ、彼女を置いてくわけにはいかないため、相乗りすることにした。


「え、あ...はいっ..よろしくお願いします。」


 彼の誘いが予想外だったのか、少し緊張した様子で妙にかしこまっていた。



東京のネオンに輝く街の景色の変わる変わる変化していく様を眺めていると、彼女から話し出した。


「・・旅行楽しかったですねー。」


 初めは何度目かわからない京都旅行が楽しめるか、わからなかった彼女であったが、彼とソフィアと白木と青鷺たちのおかげで、今までとは違った新鮮な京都旅行で、それまでの不安が嘘のように存分に楽しめることができていた。


「あぁ、そうだな。」


実は少し心配していた彼は、その一言が聞けて安堵した。


「また、このメンバーで行きたいですね。」


「まぁ、今度は楢崎もだな。」


 仕方ないことにせよ、彼女だけこの旅行にいないというのは、可哀想だった。それに、楢崎もいた方がもっと楽しかったのは事実だった。


「えぇ、そうですねっ」


「.....。」


「....。」


「....スゥ...スゥ...」


彼女が福を周囲に与えてくれるような、満面の笑みでそういった後、珍しく沈黙が続くなと思い、彼女の方を向くとこちらの肩にもたれ掛かってきた。 


(...俺の周りは無防備なやつばかりだな。)


 彼はそう思いつつも、日除用の帽子を彼女に被せて目隠し代わりにさせた。



 結局、彼女の家についても、起きる気配はなく安心し切ったかのような顔で、すやすやと寝ていたままだった。


「・・すまんな...」


このまま起きるまで待つ訳にもいかないため、彼女をお姫様抱っこしてインターホンを鳴らした。


ピーンポーン。


「はーい。」


「く...環奈の友人の海道です。環奈が寝てしまったので、届けに上がりました。」


 苗字だと誰かわからないと思い、名前で判別させ簡潔に要件を申したが、最後のは宅配便みたいだったが、あながち間違いではなかった。


「あー、あなたが海道くんね。ちょっと待っててね。」


幸いなことにこちらの事は伝わっており、仮にそうでなければ変な大男が娘を届けにきている状況で懲役は確定していた。


ガチャ


「あらあら、寝ちゃったのね。ほら、上がってください。環奈の部屋は2階に上がって右側の部屋よ。」


一瞬、彼女の姉だと思ったが、エプロンをつけているところから、おそらくは母だと暫定できたが、本当にそこくらいでしか、姉か母か見分けがつかなかった。


「ども。」


「...私はちょっと、買い物行ってくるから...そうね、二時間くらい」


 あんまり長居するわけにもいかないため、手短に相槌して2階へと向かったところ、ボソリと要らぬ気遣いを呟いた。


「いや、俺すぐ帰るので」


「あら、そう?」


 一応初対面の男に何言ってるんや。と食い気味にそう言うと、久留米母はどこか残念そうにしていた。


「..ここか」


2階に上がり、すぐ右にかんなの部屋という札が掛かっているドアが目に入った。


 少し、環奈の体をこちらに寄せてドアを開けると、そこは意外にも質素というか、実は慎ましい彼女の内面を反映したような部屋だった。


「....。」


 まじまじと見渡すのは不躾なので、早めにベッドに寝かしつけた。


「...じゃあな。」


 とりあえずさよならをして、彼女から離れようとしたが、後ろ手を引かれてしまった。


「...いかないで..」


「.....。」


 普段だったら、絶対に聞かないような弱々しい声を聞いてしまい、振り解くわけにもいかず、彼女が寝ているベッドの側に座り、とりあえず少し待つことにした。


「....。」


一応、タクシーの方に先に電子決済を済ませ、ここで大丈夫とアプリ上でメッセージを送っておいた。


 幸い、荷物は今日の朝方に学校がまとめて郵送したため、少しの手荷物を運ぶ程度で済んでいた。


「....スゥ...スゥ...」


すやすやと寝ている彼女の寝息と、それでも着々と時を勧める時計の針の音だけが聞こえていた。


(...旅行のしおりとか丹念にまとめてくれてたしな、それに名所のガイドとかもしてくれたし、少しは労わらないとか。)


修学旅行を振り返り、彼女は京都が初めてなソフィアや白木などのためにかなり頑張ってくれていた。


「...ありがとな。」


 ただ自然と久留米の頭に手が伸び、優しく彼女の頭を撫でた。


「...んぅ..へへ...。」


 寝てはいるだろうが、心地よさそうに撫でる手に擦り寄っており、いつもは余裕粛々の大人な雰囲気を纏っているが、今の彼女は年相応のあどけなさが残る女の子だった。というか、喉も鳴らしており、猫みたいだった。


「...ふっ..可愛いやつだな。」


 サラサラで艶やかな綺麗な髪は、撫で甲斐があり、そして可愛げ甲斐があった。


「....そろそろ、本当に買い物行くけど。あとはよろしくねー」


 二人だけの世界で、心がゆっくりと解けていくような心地の良い時間を過ごしていると、見かねた久留米母がドアから気を使うようにそう囁いていた。


「っ...いや、俺はもう帰るので」


 久留米の家であるから、当たり前なのだがガッツリ久留米母にその様子を見られており、やってしまったと目元を抑えながら、そう言った。


「あら、そう?」


「はい、お邪魔しました。」


 彼の手の代わりに近くにあったポケモヌのぬいぐるみを挟み、静かに立ち上がって久留米母に挨拶をしてから出た。


「...ふぅ。」


 彼女の家から出て、ウーバーを呼び直すのも何だったので、家まで少し歩くことにした。


「...今度、何かご馳走しないとな。」


久留米だけのお陰ではないが、前の世界では経験できなかった、気の合う友人との旅行というものを経験させてくれた彼女たちに何かご馳走することにした。


 冬の訪れを乗せた冷たい風は、未だ右手に残る彼女の体温を冷めるには十分ではなかった。

 







ちょこっと、一間。


「え?!海道くんが私の部屋にっ?!」


「えぇ、頭撫でてたわよ。」


「うわぁぁん..何で起きてなかったのぉ..私ぃぃ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る