修学旅行1日目。〜相部屋。〜


弱腐注意。




 そうして、初日は清水寺と周辺のお寺や錦市場を回り、初日の割にはかなり京都を満喫できた。


「ーー・・うぅーん...結構回れましたねー」


「えぇ、市場で沢山おみあげ買っちゃたわ。」


「ふふっ..」


「....。」


青鷺もソフィアも満足のいく一日だったようで、その様子を久留米と彼が微笑ましく眺めていた。


「..久留米は楽しかったか?」


 清水から彼女が楽しめているか気にかけていた彼は、それとなく聞いた。


「っ!..えぇ、また違った京都旅行でした。」


 彼女は彼からの不器用な気遣いを、どこか嬉しさを滲ませながら笑顔でそう答えた。


「..そうか。」


「...ぁ。」


 図らずとも彼女らだけの空気に触れた白木は、胸の辺りに手持ち無沙汰な手を当てていた。


「...白木?」


「ぁ..っ!ごめん。」


 そんな白木の機微を感じたのか、彼は後ろで立ち止まっている白木に声をかけると、我に帰ったように白木はいつものテンションで彼に駆け寄った。


「体調悪いのか?」


「え、大丈夫ですか?」


 彼に呼応して、久留米も心配そうに白木に駆け寄った。


「ううん、大丈夫!」


「...何かあったら何でも言ってくれ。」


 体調が悪くないというのは本当そうだったが、他に何か隠しているような雰囲気があった。 しかし、今は深くは聞かずに頭の片隅に留めておいた。


「っ..うん。わかった。」


「?」


白木は口元を手の甲で抑えながらそう言いったため、彼からは表情がよく見えなかったた。


(...優しいなぁ..もぅ)


一方で、未だ気に掛けてくれている彼の視線を逸らしながら、白木は近いようで遠い彫刻のような彼の綺麗な横顔に見惚れていた。



そうして、彼らは旅館へと到着すると、教師から班長へと伝達された指示を受けた。


「ーー・・夕食までは自由時間だそうです。どうしても旅館の外に用がある方は先生に呼びかけしてくださいとのことです。では、一旦は解散にします。」


 班長である久留米が、そう伝達するとそれぞれ男女別に旅館の居室へと向かっていった


「..楽しみだね!」


「あぁ。」


 この学校はかなり羽振りが良く、金の使い所が適切なため、特にこういったイベントではもってのほからしい。


「班ごとの部屋っぽいな....って..」


居室の扉を開き、中を覗くと本来であれば他の班の奴らと同部屋の四人部屋の筈が、なぜか海道らだけ二人部屋で、一瞬思考が休止した。


「ん...海道くん?....ぁっ..」


居室の扉を開き、ぴたりと立ち止まっている彼を不思議に思った白木は、彼の大きな体からひょこっと居室を覗き見すると、なんとなく事態を察した。


「...行こ...っか。」


そして、白木は何か意を決するかのように彼の腕を掴み、二人部屋の居室へと入っていった。


「あ...あぁ。」


バタンっ


 鼓動が早くなるのを感じ、ドアが閉まる音が妙に耳に響いた。





「ーー・・うわぁーぁ...もう一年遅く生まれていればぁー」


一方、久留米たちは学年違いのため、修学旅行に帯同できず、シクシクと悲しそうにしている楢崎とビデオ通話をしていた。


「まぁまぁ、今度みんなで温泉旅行でも行きましょー」


「うぅ...ありがとう...環奈くん。」


「うんうんっ!なーちゃんおみあげもたくさん買ってくるからねっ!」


「...ほんとぉ?」


(((可愛い。)))


 普段の楢崎は毅然とした態度で、皆の手本となるようにクールに振る舞っているが、今の彼女からはそれは微塵も感じず、少しくたびれた熊のぬいぐるみを抱き寄せており、まるでいじけた小さな女の子のような調子だった。


「ホントよっ!八橋に漬物、茶菓子とかねっ!」


「京都とコラボしてる、しぃかわの茶飲みとかも買っていきますよー」


 段々と寂しさを解消しつつあった楢崎を畳み掛けるかのように、ソフィアたちは彼女を慰めていた。


「うん..みんなありがとう...元気出てきたよぉ..」


 コラボ商品がクリティカルヒットしたようで、落ち込み具合はかなり回復したようだった。





一方その頃、海道くんの理性は機能不全に陥りかけていた。


「・・凄いね!海道くん。」


いつの間にか浴衣に着替えていた白木が、無邪気に部屋の設備の充実さに感嘆していた。


「そうだな...」


浴衣から見え隠れする目が眩むような、透明感を極めた白い肌が、理性で制御しているはずの視線を奪う。


「?」


無防備な白木の綺麗な顔がコテンっと傾げて、不思議そうにこちらを見つめる。


ピキッ


「....白木...」


 何かが壊れる音がして、体が勝手に白木ににじり寄っていた。


「ぁ...か、かいどう、くん?」


 肌が触れるくらい近くなったところで、白木は頬を赤らめ、ちょこんと彼の服をつまんで彼の名を、そのか細い声で呼んだ。


(...やば..)


白木の否応なしに人を惑わす甘い匂いが頭に響き、正常な判断が出来なくなる。


「ぁ..の、その..」


彼の大きな手が、白木の綺麗な頬に近づく。


「....白木。」


今はただ、目の前の甘美な果実を喰らいたかった。


ジャーーーー

 

「・・ん?」


 すると、プライベート露天風呂の方から水が流れる音が聞こえ、それが気付けのように彼を正気に戻させた。。


「あ...お風呂の方、からだね。」


彼が離れて、少し寂しそうな表情をしていた白木であったが、先までの色々と危なかった流れを変えるように、音の正体を知りに風呂の方へと小走りしていった。


(...何しようとしてたんだ..俺。)


海道は先まで白木の柔い頬に触っていた手を手鏡し、未だ劣情に似た行き場のない感情を心の中で吐露していた。


「・・うわぁ...すごいなぁ!」


そうしていると、風呂の方から白木が驚いた様子の声が聞こえ、そちらへ向かうと、途端に檜の香りが漂っており、京都の街が一望できるプライベート露天風呂があり、やはり一学生にはかなり贅沢な設備が揃っていた。


「あ、そういえば、しおりに源泉掛け流しだけど一定時間で入れ替えてるって書いてあったね。」


源泉掛け流しといえど、メンテナンスのために入れ替えているらしいようだった。


「あー、そうだっけか...?」


しおりなんて見ないから知らんかったなと、思っていると白木がどこかよそよそしい様子で、赫く輝く宝石のような眼をこちらに向けてきた。


「...まだ、夕食まで時間あるし...入ろっか。」


 何をいうかと思えば、早速この露天風呂に浸かりたいようで、なぜか此方に報告してきた。


「ん?あぁ。」


白木が言った意味をイマイチ察しきれていない彼が、言葉のの真意を知るのは案外早かった。








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