掌編「喧嘩は筋肉か人脈か」
「ムカついた――……喧嘩しようぜ」
顔と肩に刺青が入っている、見た目からして自信がありそうな屈強な男だった。
その目の前にいるのはごくごく平凡な男である。筋肉はなく、細い方だろう……かと言って勉強ができるような男でもなかった。
一応、高身長ではあるので、そこだけは屈強な男と並んでいるとも言えたか。
「喧嘩か……いいだろう」
喧嘩しようぜ、に、二つ返事で返す。……力の差が分からないほどバカではないだろう。
相手の刺青を見ても怖がらないのは、それをひとつのファッションとして認めているから、なのかもしれない。ピアス、ネックレスと同じようなものだと思えば、オシャレと思っても怖いとは思わないだろうから。
「フン、意外と好戦的じゃねえか。……大げさに言ったが、結局、肩がぶつかっただけだぜ? そっちが謝れば加減はするつもりだったんだが……本当に喧嘩をすんのか?」
「謝っても加減をされるだけで、どうせ殴られるなら最初から挑んだ方がいいと思うが? ……と、俺は思うがな。構わないよ、喧嘩くらい。喧嘩ばかりもダメだが、まったくしないというのもそれはそれでダメだ。温室育ちは外敵に耐性がなくなるからな……こういうのはタイミングがあるなら乗っておくべきだ」
「ぶつぶつとうるせえな……さっさとやろうぜ」
「ああ……だが、少し待て……」
と、平凡な男がスマホを取り出した。なにやら文字を打っているようだが……。
まさかとは思うが、仲間を呼ぶつもりか? 確かに、サシで、とは言っていなかったが……。
「おい、てめえがこいよ」
「いや、俺はいかないよ――まあ、俺の力ではあるのだが」
「はぁ?」
数分後、現れたのは屈強な男に勝るとも劣らない同じく屈強な男たちだ。
同じくらいの力量であれば、ひとりよりも複数の方が分がある……当たり前だ。
「俺じゃなく、俺がこれまで築いてきた人間関係を使わせてもらう。こういう時のための交友関係だ……これも俺の力だろ?」
「てめえ……それでも男かよ……ッ!!」
「男だよ。チンチンを見せた方がいいか?」
平凡な男を囲むように、複数の屈強な男たちが動いた。
喧嘩を売った男が、小さく見えてくる……。
「お前が筋トレし、上の者に歯向かって度胸をつけている時、俺は気を遣って頭を下げて、好感度を稼いでいたんだよ。どこをどう磨き向上させるかは目的によるだろう? 俺は、決して頭は良くないが、それでも自分が矢面に立ちたくないなら別の誰かに立たせればいいと気づけるんだよ――これだって俺の力だ。……右腕なんだよ」
全員が右腕。
それに多少なりとも、不満を持つ周りの男たちだったが……。
「積み上げた人間関係も――筋肉だ!」
「それは意味分かんねえよ」
…了
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