【欺】第39話 Mr. ネズミバーガー
「ここか、松本良順クリニック」
内科、歯科、整形外科となんでもござれの看板だ。馬場は朝、事務所で宮武をバカにしすぎたことを反省し、迎えに来ていたのだ。
ただ2、3歩歩けば忘れるもの。受付ではすっかり鼻を伸ばしていた。
「うちの上司が来てなかったかなぁ~~~、宮武って言うんだけど」
受付嬢はパソコンを打ちながら対応する。
「さあ、知らないですよ」
「もう~~~、素っ気ないね。恋の病でさ。患者なんだよ~~~」
「それじゃあ、順番に呼びますから。そこでお待ちください」
まったくの無視。ただちに食い下がる馬場だった。
「待てって! いや、待つまでもないって!
君の口づけで治るから。舌で温度も測ってくれたらいいよ」
下品な誘い。それでもみずみずしい唇が馬場の耳に寄ってくる。
「こっちはな。そんなたるんでる時間、1㎜もねぇんだよ。
医療現場はいつ、何がうつるかわからないリスクと戦っているんだよ」
射殺すような本気の目。急に青ざめる馬場だった。
「すまん、すまん! 冗談だ!
きっと、すれ違いだな。マックでも買って帰るとするよ」
「アラッ、残念。もう、来ないでいいからね♥」
尻尾をまくる馬場であった。
帰り道。馬場は橋の下、フジタのもとへ
フジタとは古い付き合いで、
トタン板と厚い布でおおったみすぼらしい小屋。小バエが飛び交い、ネズミが走る。大きなトラックが通れば、振動とほこりで目が開けられないほどだ。
使い古した自転車。アンテナの折れたラジオ。くしゃくしゃの新聞を下に引き、ダンボールで
その上で満面のスマイルで待つフジタ。馬場を
「やあやあ、スマイル0円や。よう来てくださった」
水が腐った汚臭。黒ずんだコップが生々しい。
マジで何かがうつるかも知れないぞ。フジタの肩にどっさりとフケが落ちていた。
「体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫やが、財布がずっとカゼをひいてますけど」
長居は禁物。馬場は冗談も聞かず、紙袋を取り出した。
「じゃあ、早く治してください。とりあえずハンバーガー、買ってきましたよ」
「悪いな。いつも差し入れ、ありがとさん。
昔は本の印税で実入りもあったんやけど。最近は誰も俺のサクセスストーリーを見てくれなくなってしもうた。。
ホンマ現金なもんやで。
この100円バーガー、大事にいただかせてもらうさかい」
鼻につく、うさん臭いなまり。
おむすびに、ヒゲが生えたような顔。ボロボロのスーツにはアブラゼミのような太っ腹がはみ出していた。
手もツメも、あきれるほど汚れている。
使い回している割り箸すら茶黒に変色、気持ち悪い。そして、それ以上にフジタの食事に馬場は吐きそうになってしまった。
なぜなら、フジタは叩き殺していたネズミをハンバーガーにはさんだからだ。
「一口、どうや?」
さすがに馬場は首をふる。
ハエすら寄らない。たまらん。とんだ気づかいだ。
「うぇ…、お気になさらず」
それでもフジタは引っ込めない。
「そう言わずにや。動物性タンパク質は大切やで~~~。
しかしなぁ、仏教ルールで四足の動物は昔っから禁止やったんや。んで、わいらの身長は止まってしまった。つまりは、いただける食いもんはまんべんなく、にや」
ヘルシー志向。
長らく日本の食生活は米・味噌・たくわんといった質素なものであった。それを量によって、おぎなった。
だが、肉・肉・肉。
絶対にもうかるビジネスは肉にある。毎日、口にするものは必ずもうかる。
そして、金・金・金。
毎日、手にするものは必ずもうかる。できるだけ、自分の陰口をたたくやつに貸すべしだ。そしてだまらせ支配すること。
誰もが毎日、見る、聞く、かぐ、行く、感じるがキーワード。これさえ押さえれば、成功間違いなしだろう。
フジタは若いころ、米軍基地御用達になってユダヤ商法に初めて触れた。
ただし、1940年の日本では7.7禁令により不要不急のぜいたく品の製造や販売が禁止されたことにより、取り扱う業者が激減。食料にいたっては切符制や配給制へとかわり、産業自体は壊滅した。
ハンバーガーを食い散らかすフジタだ。
「そうや。だから、戦後にこれらを支配したんは第三國人(中国人・朝鮮人)やったんや。
なぜなら、すぐに中国や朝鮮で内戦がおっぱじまったからな。
武器が動けば人も動く。人も動けば物も動く。物が動けば金も動く。そして金が動けば麻薬も動く。
もともとシンジケートを築いていたあいつらは日本の闇市で大もうけや。戦争は麻薬を合法にする。ただの、一般的な娯楽になるんよ。
そんで、あいつらは闇市で儲けた金で娯楽場を開いた。キャバレーやマージャン店、パチンコ店もそう。日本名で改名し、経営するんや。いっぱしの資金源やったわ。
ホント、わいらはみすぼらしい奴隷やった。何かあれば戦争犯罪を持ち出してきよる。武器やってドンパチ、ぎょうさん持ってる。たてついても割に合わん」
回想に熱がこもってしまったのだろう。どんよりと顔をくもらせるフジタであった。
「だからな。気張って、警察にうったえてみるんよ。
ところが『 泥棒は捕まった者だけ 』って言う。あいつらからもらったタバコで賭マージャンやりながらや!
でも、わいらは気づいたんや。そもそもそのタバコもアメリカ産や。結局は第三國人の後ろにも、アメリカがちらついとる。
要は、アメリカに従うことが花やとな。
なんでも、アメリカは長らくコレラや作物の害虫のやったネズミを一等にした超大国。ネズミ―ランド、言うたかな?
あれは世界に対する挑戦で、それを人気者へひっくり返す力を手に入れたってことなんや。
もう、アメリカは沈まん。それができる国が現れたときはゴキブリが人気者になっとるはずや。
だから、このバーガーも日本人に1000年食わせとき!
ついには日本人はアメリカ人になるわ。ネズミをはさんだところでアメリカ産って言っておけば、喜々として口に入れるほどにや。
そうすれば、アメリカ人以外にへつらうこともなくなるわ!」
食いかけのバーガーからは、だらんとネズミのしっぽが垂れていた。
とはいえ、戦後の驚異的な経済成長。
その要因は軽い言葉だ。交通機関を整備したからか? 猛烈な労働力か? 優秀なリーダーシップか?
そうでもない。フジタのようにアメリカ人へ頭を下げまくり、手もみ足もみ
彼らが押し上げたことも事実だ。決して純粋な日本国民だけの成果ではない。
フジタは、アメリカは沈まないと言った。
ネズミはまだ、人気者か? ハンバーガーの美味しさだけは不変だろう。
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