第78話 ハゲルトン神父のお願い 飢餓 母
「お父様!お母様!!」
グラはオアシスの事を伝える為に、猪突猛進する。
「ふん!」
「ぐはっ」
「ん?グラどうしたの?」
戻ってきたグラの目の前では、腹を押さえながら蹲るクラフトと、満面の笑みで拳を振り上げる静花の姿だった。意表を突かれたので、何を話すのか一瞬忘れてしまったが、ハッとオアシスの事を思い出した。
「オアシスが!」
「痛たたた。オアシスがどうしたんだ?」
「無くなったの」
「ハッハッハ」
「アッハッハ」
2人はこれは何のジョークだと大笑いしてみたが、グラの表情が真剣だったのでスッと笑いを辞め、オアシスに向けて歩き出した。そしてオアシスに到着すると、2人とも膝から崩れ落ちた。
「なんて事だ」
「早く他のオアシスも確認しないと!!」
「あ……ああ、そうだな!!」
「グラは家に居て!」
「う、うん」
グラは1人家で待っていると、周りが騒がしくなって行く。そして聞こえて来た言葉に目を丸くする。
「おい!そっちは!」
「ダメだ!こっちも出てない!!」
「今月の管理はアイツらだったよな!」
「ああ!◯◯だ!でも、アイツら1人も居ないんだよ!!」
「はあ?!」
「いつから居ないんだ?」
「昨日は居たぞ」
「そんなバカな事があるか!部族一つが誰にも気付かれないで一晩で消えただと?!」
聞き耳を立てていると、ドアが開いた。
「お父様?」
「グラ。良く聞けな、俺は今から生きてるオアシスを探しに行く。グラは静花と一緒にみんなを護るんだぞ!絶対オアシスを見つけてくるからな!」
「お父様!」
「クラフト。頼みましたよ」
「ああ!任せとけ」
家族は抱きしめ合いクラフトは、砂オークの戦士と、砂鬼族の水鬼と共に旅立って行った。それから数ヶ月。未だクラフトたちは帰ってこない。
部族の食料は尽き、辛うじて残っていた水は残すは数日分と迫っていた。
「お、お母様……」
「グラ!!必ず、クラフトが父さんがオアシスを見つけてくれるわ!」
「ほ……んと?」
「ッ?!」
静花は分かっていた。そもそもこのオアシス以外のオアシスは枯れていたのだ。この砂漠で勇逸の水場。かつて黒猫族が住む自然豊かなこの地は、隕石により干上がり、その時の衝撃でピラミッドは砂の下へと埋まった場所。その上に住んでいた。当時川が合ったこの場所はこの砂漠地帯で最後の大きなオアシスだった。
「ええ。本当よ」
「そっか……」
「グラ?」
グラが嬉しそうに笑顔を見せると、意識が整いた。手を握っていた静花は、手から伝わる熱が鼓動が小さく、弱くなって行くのを。
「グラ?!」
グラが死ぬかも知れない。彼女は覚悟を決めた。
「グラ。あたしの分まで生きてね」
一度、グラの額にキスをした後。指を噛み血を出す。そのまま両手でグラの心臓の上に手を置く。
「ああ。グラの為に死ねるもの、良い人生だったわ。偉大なる夜桜様。我はこの魂を持って、最愛の人に、暫しの間生きる糧を与えたもう、我の血は、肉は、骨は、魔力は、我の全ては我の息子グラの為にある。我の血肉を贄とし、我の息子を救いたまえ【魂ノ
静花の身体が光の粒子となり、死の淵に身を投げ出していたグラに降り注ぐ。彼女は笑顔で消え、女顔の仮面が一枚カランと床に落ちるのだった。
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