第60話異世界への扉

 本願寺広島別院ダンジョンから帰還した翌日、開拓者ギルドから駐屯地ダンジョンの開拓者ギルドに出頭するように要請が来た。要件はアイテム「異世界への扉の鍵」についてだ。


「いやです」


 駐屯地の髭達磨の愛称を頂く初老のギルドマスターが開口する前にきっぱりとお断りする。


「まだ何も言うてないじゃろが」


 髭達磨さんは苦笑いをする。


「既に色んなところからオファーが来ているのです」


 そう。昨日のことはダンジョン配信で20万回以上再生されていて専用スレッドはパート4まで消費しているニュースです。

 既に有名クランや有名商社からのオファーもあります。目的は突然提示された異世界への切符。

 なので、色々と検証しなければいけないのです。


「ギルドや国といった第三者が開拓者が得たアイテムを無理矢理接収することは国際法でも禁じられとるから売れとか言わんよ。でもアングラなところはどこにでも存在する。警護を付けさせ貰えんか?」


「うちには紅桃が居ますよ?なんなら隠密に長けたモンスターをテイムして護衛に付ける手も」


 確か海田市に真言宗の大

 師寺があって中級ダンジョンもあったはず。なんなら宮島の弥山にも密教系のダンジョンがあるからね。


「あぁ・・・もう。正直に言う。異世界探索に国として一枚噛みたいんだよ」


 観念したような顔で髭達磨さんは呟く。

 どうやら、国家レベルの身辺警護と引き換えにアイテムの効果が知りたい。本当に異世界に行けるなら利益を享受したいと・・・


「アイテムの検証だけ。秘密裏に行うならお受けします」


 というのが即座に譲歩案だった。



「おぅ嬢ちゃん」


 開拓者ギルドが用意してくれた協力者というのは、鬼ヶ島ダンジョンで知己を得ていたJ隊の田中さんのパーティーだった。まぁ、開拓者ギルドと国の紐付きで自分とも知己があると言えば最適の人材とも言えるのですが。


「近所に詰め所を借りたから、少しは安心して欲しい」


 うへ。襲われるの前提ですか?まぁ家族は不存でほぼ一人暮らしですからね・・・あれ?護衛要員の配備急務だったりします?



「という割と深刻な事態となりまして・・・」


 月曜日。取りあえず学校の先生に相談します。家の周辺はJ隊の人が当面の警護をしてくれるようですが、学校内はそうもいきません。


「なるほどなるほど・・・」


 高校の学年主任と剣道と合気道の教師そして開拓者倶楽部の顧問も務める戸隠麻呂先生は山羊のような白い長い髭を撫でながら唸る。


「学校としてもA級開拓者でもある戸隠先生の判断にお任せします」


 戸隠先生の隣りに座っていた簾頭の初老の男性田貫陀凡校長はそれだけ言うと額の汗を拭いつつ黙り込む。

 そう戸隠先生は齢75歳の非常勤教師でありながら今だ現役のA級開拓者でもある超人おじいちゃんだ。


「いつまでかの?」


「隠密性の高いモンスターをテイムして護衛に耐えうるまで育成します。1ヶ月ほど時間を頂ければ・・・」


 そう。自分の身は自分で守る事にしたのだ。


「テイマーだったかの?」


「はい。護衛が5分稼いでくれれば最大戦力で迎撃できます」


 自信を持ってそう答える。


「ほう・・・見せて貰っても?」


 戸隠先生は興味深げに見つめる。


「はい・・・召喚。紅桃!チビ!疾風!ペンタントちゃん!」


 ぼうっと光で描かれた召還陣が浮かび上がり、順に紅桃。チビ。疾風。ペンタントちゃんがその姿を現す。


「ふん」


 戸隠先生が短く息を吐くと、4人は身構え自分の近くに寄ってくる。


「なんだ?このジジイは?」


「わふん!」


「にゃっ」


 紅桃、チビ、疾風が臨戦態勢を整える。


「なるほど・・・よう鍛えておる」


 どうやら戸隠先生が殺気を放ってそれに三人が反応したようだ。


「良かろう。オーガを教室にて控えさせることを認めよう。ただ、九竜は、暫く放課後に道場で護身術の練習じゃ」


「はぁ・・・判りました」


 たぶん拒否権はない・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る