第31話 原爆ドームダンジョンその1

 原爆ドームダンジョンは通称を天使と悪魔のダンジョンという。基本的に第1階層には低レベルの天使と悪魔そしてハーフの子がいて、開拓者と契約すべく待機している。

 なぜなら、開拓者と契約すれば領地がなくても魔力の供給が受けられるし、強くなる事も出来るからだ。

 毎月1日。第2階層以下では天使や悪魔やハーフのレベルに応じて領地が与えられる。

 そして領地を巡っての縄張り争いが行われる。無論侵入してきた者は開拓者であろうと戦いを挑む。

 負ければコピー体は消滅し、領地は攻め込んできたライバルたちのものになる。

 無論、侵入してきて負けたのがゴーストや開拓者だったりすると、領地は空き地になって近隣のライバルに占領されるのだが・・・

 そうやって領地が広がるとコピー体は強く成り、隣接する領地に侵攻を開始する。月末が来たとき最大の領地を持っている個体は一つ下の階層に召喚され、再び1から繰り返す。

 そして12月31日に最下層200階層で一番広大な領地を所有する個体は天界または魔界に召喚され、神のまたは魔王直下の配下として働くことになるらしい。

 最も、そう言った争いの中で開拓者にテイムされたりする事で神や魔王の支配から外れる個体が出てくる。

 例えば原爆ドームダンジョンの第1階層で開拓者を案内役をしていた天使や悪魔が実はダンジョンの理からバズれた者らしい。

 彼ら彼女らには使役しているテイマーがいて、お休みのときにはお手伝いをしているのだとか・・・彼ら彼女らの存在がモンスターにハーフという種族を生み出しているという。


「我が領地を侵す者は許さん!」


 エンジェルが連接棍棒フレイルを振り回しながら突っ込んでくる。


 原爆ドームダンジョンのもう一つの特徴は、ダンジョン内が障害物の少ない広い平野だということ。だから彼等が領地と呼ぶ場所に侵入すると、即座にロックオンされる。


「任せろ!」


 隆司くんが持っていたロングソードで丸盾を叩きながら叫ぶ。相手の敵意を集める戦士のスキル挑発タウントだ。


 ガシン


 フレイルと盾がぶつかる鈍い音が響く。


「袋だ!」


 上級ダンジョンとはいえ第5階層まで敵が徒党を組むことはない。数の暴力がモノを言う。


「わんぉ!」


「にゃあ!」


 疾風とチビが横合いから攻める。


「ダークアロー!」


 ペンタントちゃんの右手の人差し指から黒い閃光が飛び出しエンジェルを貫く。


「ぎゃ!」


 小さく悲鳴を上げてエンジェルは魔石を落として消える。


「さあどんどん狩っていくよ!」


 真っ直ぐ第3階層を目指すのではなく、第2階層の秩序を蹂躙すべく制圧して行く。8月に入って6日しか経っていないのだ。狩り放題である。


「せい!」


「にゃあ!」


「わんぉ!」


 隆司くんとチビと疾風の剣がインプを切り裂く。


「ぎゃ!」


 小さく悲鳴を上げてインプは蝙蝠の羽と魔石を落として消える。


「順調。順調」


「まぁ6人編成なら悪魔とゴーストが弱体化した今なら第5階層まで楽勝でしょ」


「心ちゃん。油断大敵。過信禁物だよ」


 一応注意しておく。まぁイレギュラーでも発生しない限りこの6人で弱体化している今なら中層までは楽勝だろう。

 そして、ペンタントちゃんの伸び方次第では下層も視野に入る・・・はず。


「ウラメシ~」


 不意に靄みたいなモノが叫び声を上げながらやってくる。


「にゃあ!」


 チビがすかさず手をかざして呪文を発動させる。


「ウラ・・・メ」


 淡い光に包まれ、ゴーストが魔石を残して消える。今のでも弱体化しているのが判る。


「なんでゴーストってウラメシ~って言うんだろ?ダンジョン産なら普通に考えても恨みとか無いよね?」


 心ちゃんが首を傾げる。言われてみれば確かに・・・元がダンジョンで死んだ者の魂なら恨みよりは悔しいだよね?

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