◇Phase 10◇

【天界/地獄】


(このPhase 10では二つの異なる場面が平行しており、可能ならば同時に喋る演出なども面白いかもしれない)

カルミアとレリアが並んで歩いている。

ドライアンとグレモリアが並んで歩いている。


レリア:姉さん、

グレモリア:先輩、

レリア:何か良いことありましたか?

グレモリア:何か良いことあったっすか?


カルミア:ん? どうしてだ?

ドライアン:何故そう思う?

レリア:いえ、少しお会いしないうちに――

グレモリア:雰囲気随分変わってるから何かあったんだろうなって。

カルミア:私は変わってなどおらんが……。

ドライアン:ああ、でも強いて言えば前より力がついたかも知れんな。あと筋肉も。

レリア:ええ。存じております。姉さんが、あの片角の悪魔ハーフ・ムーンと――

グレモリア:四つ眼の天使エレメンタル・アイズを仕留めたって話は有名っすからね。

レリア:――姉さんの活躍で南方の戦線が持ち直したとか。

グレモリア:天使の中でも相当な強敵だって噂だったっすけどね。

ドライアン:いや。

カルミア:いや。

ドライアン:見せかけだけで、

カルミア:骨の無い連中だったよ。


間。


ドライアン:あいつに比べれば。

カルミア:彼奴あやつに比べれば。


レリア:カルミア姉さん?

グレモリア:ドライ先輩?

カルミア:いや。それよりレリアこそ

ドライアン:かなりの功績を積んでいると聞くが。

グレモリア:そうっすよ。先輩のために頑張ってるっす。聞きたいっすか? あーしの武勇伝。まぁでも――

レリア:僕はただ上に言われたことを忠実にやっているだけですよ。結果が実績になる。それだけです。ただ、僕の勲功くんこうが余程目障りなのか、過酷な現場にばかり送られますがね。

グレモリア:大人しく後ろにやれば戦果なんてろくに上げられず、出世することもないってのに。馬鹿な奴らっすよ。正直、あんな奴らに従うの嫌っすけどね。

カルミア:お前も苦労しておるのだな。

グレモリア:ほんとっすよ。

ドライアン:ははは。お前は戦いが嫌いか?

レリア:好きでも嫌いでもありませんね。ただ与えられた命令に従うまでです。戦う以上――僕ら天使に敗北は許されない。

グレモリア:だからあーしは意地でも生き残ってみせる。生きて帰って先輩と――

レリア:姉さんと、

グレモリア:お喋りするために。

レリア:お話しするために。

カルミア:レリアは強いな。

レリア:いえ、僕など

グレモリア:先輩に比べればまだまだですよ。

カルミア:私もまだまだだ。

グレモリア:先輩、謙遜けんそんも過ぎれば嫌味っすよ?

カルミア:かも知れぬな。だが、

ドライアン:グレモリアも過小評価してるだろ?

カルミア:並の天使にあれだけの戦果は上げられまい。

ドライアン:殺戮者さつりくしゃ

カルミア:死神。

ドライアン:黒き風。

カルミア:執行人。

ドライアン:随分とまぁ物騒ぶっそうな名前で呼ばれているそうじゃないか。

レリア:恥ずかしいですよ、姉さん。

グレモリア:恥ずかしいっすよ、先輩。

レリア:僕は姉さんの前では一人の弟レリアでしかありません。

グレモリア:肩書きや名誉なんてあーしにとっては服についた値札みたいなものっす。

レリア:いつからか付いていて、ただ目障りなだけ。

グレモリア:あーしはただ、先輩といられるならそれで良いのに。

カルミア:レリア……。

レリア:その為には、悪魔を。

グレモリア:天使を根絶やしにしなければならないっす。

レリア:僕はだから強くなったのです。姉さんとの――

グレモリア:先輩との――


間。


レリア:未来の為に。

グレモリア:未来の為に。


間。


ドライアン:未来の為、か。

レリア:……いえ、少し違いますね。

カルミア:うん?

グレモリア:先輩の、未来の為っす。

カルミア:ふ、ふふ。レリアは優しいな。ありがとう。

レリア:笑わないで下さいよ!

グレモリア:その、本気……なんすから。

ドライアン:ありがとう、グレモリア。

レリア:いえ、この天使レリア・アンセプス、

グレモリア:悪魔グレモリア・グリモニー。

レリア:命に代えても、

グレモリア:先輩の未来を、

レリア:守らせていただきます。

ドライアン:グレモリア、それは俺も同じだ。

カルミア:お前がいなくなったら私とて悲しい。

ドライアン:死んでくれるなよ?

カルミア:レリアの未来を私も守りたいのだ。

グレモリア:先輩……!

レリア:姉さん……!


キーンという音。

以下(声)はベル役の担当、或いは複数人で同時読みなどの演出を推奨。


ベル:(声)『全ての天使、並びに悪魔に告げる』


レリア:何だ? この声……!

グレモリア:頭に響く、っす!


ベル:(声)『決戦の刻だ』


ドライアン:決戦だと?

カルミア:何を、言っている?


ベル:(声)『悠久の古より続く争いに幕を下ろす』


カルミア:この声って、

レリア:姉さん……!


ベル:(声)『我が配下、天使に命ずるは死を以ての清算』


グレモリア:何が、起こるんすか?

ドライアン:決まってる、良くないこと、だよ。


ベル:(声)『我が怨敵、悪魔に命ずるは凄惨なる死』


グレモリア:これ、ヤバくないっ、すか?

レリア:ついに、きてしまった。


ベル:(声)『天使よ、悪魔を蹂躙し殲滅せよ――

ベル:(声)――悪魔よ、天使を陵辱し殺戮せよ。』


ドライアン:無茶苦茶じゃねぇか!

カルミア:始まってしまった……。


ベル:(声)『決戦の刻だ』


レリア:終わりだ。


ベル:(声)『我は神。世の理を統べる者』


ドライアン:神だと?

グレモリア:そんな……!


ベル:(声)『そして全てを導く者』


レリア:平穏な日々は終わったんだ。


ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』


グレモリア:明日から、地獄が始まるっすね。


ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』


ドライアン:いいや。

カルミア:今からだ。


ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』


レリア:姉さん……。

グレモリア:先輩……。


ベル:(声)『神の名の下に全てを殺せ』


ドライアン:心配するな、お前は俺が、

カルミア:心配するでない、レリアは私が、


ベル:(声)『全ての者は神の名の下に――』


ドライアン:殺させない。

カルミア:殺させない。


間。


ドライアン:これからお前はどうするんだ?

カルミア:命令に背くことは出来ない。

ドライアン:あんな命令従う必要あるのか?

カルミア:所詮これが私の――

ドライアン:俺達の運命さだめだっていうのか?

カルミア:そう、天命さだめには逆らえない。

ドライアン:そんなのは、認めない。

カルミア:私だって、こんなのは嫌だ。

ドライアン:だったら、どうして、

カルミア:どうして私達は、


間。


ドライアン:出会ってしまったんだ?

カルミア:出会ってしまったのだ?

カルミア:私は天使だ。

ドライアン:俺は悪魔だ。

カルミア:これまで何度巡り合った?

ドライアン:確か九十九回目。そして次の、

カルミア:あと一回で、

ドライアン:百回目。

カルミア:百回目。

ドライアン:次で最後だ。

カルミア:これで終わりだろうな。

ドライアン:俺はかつて無いほど思うんだ。

カルミア:思いたくはない、けれど私も思う。

ドライアン:会いたくない。

カルミア:会いたくない。

ドライアン:だって、

カルミア:だって、

ドライアン:会ったら多分、今度こそ本当に

カルミア:会ったらきっと、今度こそ本当に


ベル:(声)『――殺し合う』


ドライアン:カルミア。

カルミア:ドライアン。

ドライアン:俺はお前を、

カルミア:私は貴様を、

ドライアン:殺したくない。

カルミア:殺したくない。

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