孤独の別荘
@IKDN_KKYM
プロローグ
よし、着いた。カーナビが運転終了の合図を送る
家から車で半日ほどかかる場所にある俺の別荘は、山奥にあって、自然もあふれかえっている。景色としては最高の場所だ。ただその点、大自然すぎて別荘に帰るのに滅茶苦茶時間がかかるため、ここに帰ってくることはかなり少ない。年に三回か四回くらいだ
この久しぶりの景色に思いを馳せていると、突然電話がかかってきた。山奥なのになぜか電波が届く不思議な場所だということを思い出した
あれ?電話に出るとき最初何て言ったらいいんだっけ。電話に出ることが久しぶり過ぎて常識的なことさえ忘れてしまった
「はい。もしもし」俺はいつもより声を高くして電話に出た
「あーもしもし?僕だけど」電話越しで、あまり声質が分からないが、しゃべり口調から仲の良い友達なんだろうと予想がついた。ならなおさら名前を聞きにくいじゃないか
しばらくの沈黙が続いた後、相手が口を開いた
「あ、久しぶり過ぎて名前覚えてないか(笑)井口だよ、小学校の頃の同級生」
井口・・・ああ、小学校の頃友達だったあいつか。確か中国人だったよな、あの時と比べてずいぶん日本語がうまくなったなあ
井口は小学校一年生から六年生の時までずっと同じクラスで仲良くしてた旧友だ。メールアドレスを交換したり、しばらくの間連絡は取っていたのだが、だんだんと話すこともなくなり、いつしか年賀状を交わすだけの相手になっていた
なんで井口から今電話がかかってきたんだろう、と考えているときに、相手は話し始めた
「いやーマジで久しぶりだなお前。元気してた?僕は相変わらず元気だけどさ、今度一緒に遊ばね?ちょっとだけでいいから」
ああ、確かにこんな奴だ。突拍子もなく変な話題持ち出して、変に自分語りを始めるやつだ。やっと腑に落ちた
そしてなんだ?今度一緒に遊ぼうだって?今はもう実家とは程遠い場所に来ちまったぞ
「あー悪い、今別荘に帰っててさ、しばらくは家に帰れそうにないわ。ごめんな」俺はできるだけ相手を傷つけないように断りを入れた
「あーまじか。じゃあ僕が別荘に行くよ」井口はこんなことを言い出した
俺は黙ってしまった。なんでそんな僕に会いたがるのだ?別荘だと言っているのに、当分家に帰れないと言っているのに。そこまでして僕に会いたい理由は何なのだろうか
「とりあえずお前の部屋綺麗にしておいて。お前の部屋本当い汚そうだから。それじゃ」ここで電話は切れてしまった
正直、俺はこいつを別荘に入れる気はない。だって入れるほどの中でもないだろう。確かに昔はよく話をしていたが、今ではすっかり音沙汰のなくなっていたんだからな
しょうがない、断りのメールを入れておくか。僕は井口のメールアドレスを開いた。するとまた井口から電話がかかってきた。
「なんだよ」早く別荘の中に入って一息つきたいところを邪魔するなということをわからせるため、少し強めの口調で言った
「あぁごめんごめん、つい伝えるのを忘れてしまってね」井口もこちらの心情を察したのか、申し訳なさそうに話を進めた
「そっちの別荘の話なんだけど、今すぐ場所を変えた方がいいぜ。さもないと大変なことになっちまう」
「は?どういうことだよ」
俺は意味が分からなかった。急に電話をしてきて、さらには別荘の位置を変えろなんていうやつだっただろうか。というかなんだこの状況は。整理してみても自分で何を言っているのかわからない
「まあ、詳しいことはお前の別荘で話す。あと2時間くらいでつくから少し待っておけ」
ここで電話は切れてしまった。いったい何だったのだろうか。急な展開に心が落ち着かない。本来の目的とは正反対だ
しかし、あいつももうここまで二時間という距離まで来てしまっている。なんで俺の許可も入れずに来てしまうのだろうか
思えばあいつも昔からこんな感じだった。自己中心的な発想で、なのに行動力はすごくて。俺にとってある意味憧れの存在だった
それが今となってこんな憎たらしくなるとは思ってもいなかったが、しかたない。旧友と出会えるいい機会だ。そう自分に言い聞かせることにした
とりあえず先に別荘に入っていよう。本当に今の時期は寒いからな。さらに山奥の別荘だ。いつもの都会なんかよりも段違いで寒い。雪も積もっているこの地帯にずっといると凍え死んでしまうそうだ。俺はあいつが来るのを待ちながら、ホットコーヒーでも飲むことにした
孤独の別荘 @IKDN_KKYM
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