眠り

光模様

第1話 雲のような煙

 友人との通信が途絶えた。極地に暮らしている複数の友人、知人と連絡が取れなくなった。数ヶ月、数年経つと、同様の噂が聞こえてくる。

 不可思議な出来事に薄ら寒さを感じるが、日常は変わらない。病院でひたすら毎日同じ仕事を繰り返す。


 冬は元々曇りの日が多かったのだが、最近は遠くの雲の色が普段と違うようで目の錯覚か、それとも疲れ目かと疑っていたが、数日後には遠くから迫る雲は赤みを帯びた色をしており、見間違いではなかったことがわかった。ニュースでも衛生画像や望遠レンズでの映像が用いられ、極地から赤道付近に向けて広がっているそうだ。雲の色はどこかの赤い粒子が風に吹き上げられたのだろうなどと解説されているが、極地と音信不通になっていることは報告されない。噂にすぎなかったのか。

 赤い雲にも見慣れた数週間後、とうとう雲が街の端を呑み込んだ。と空に浮かぶというより、地を這うように進行していることに気付く。みるみる病院の方まで迫ってくる。雲、いや空に浮かんでいないから煙なのか、それから必死の形相で逃げてくる人々がおり、病院の前を通りかかった運転手に聞くと煙に包まれた人が致死のような眠りについたのを見たと言う。

 患者を全員避難させようにも車が足りない。数回ずつ避難させることにし、残る最後のグループと玄関で待機する。果たして車は病院に戻ってくるのか、覚めることのない眠りならば苦しまずに死ぬことになるのだろうか、と思考のループに陥っている間に煙はその鮮やかさを増し、ぐんぐん迫ってくる。

 と、煙の中から光が二点現れ、猛スピードで病院前にワンボックスカーが現れ、停車した。「乗れ」ということだろう。全員乗り込ませてからドアを強く閉めると急発進した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眠り 光模様 @inwater

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る