藍色の月
薄川 零
藍色の月 第一章 再結成が紡ぐ縁
ヴァイオレット・ムーン……
1970年代前半に全盛期を迎え、その後メンバーチェンジを繰り返し、一時は解散した伝説のハードロックバンドは……1984年、僕が高校2年生となった4月に、その全盛期の頃のメンバーで再結成した。
再結成記者会見の画像には、ギタリストのヒュー・サリヴァンの姿が写っておらず少し心配になったが……彼はヴァイオレット・ムーンからの脱退直後に結成し活動を続けていたグリーンスリーヴスを、前月の3月で解散。翌4月、ヴァイオレット・ムーンへの再加入をしたのは間違いなかった。
リーダーのダグ・ボンドも……
「ヒュー・サリヴァンは今、犬の世話で席を外していますが、ちゃんと居ますよ」
と言っていたし。
再結成アルバム第1作【パーマネント・ストレンジャーズ】がリリースされた11月……既に17歳になっていた僕と、その人は21……もうすぐ22歳の、初冬の出逢いだった。
その人との出逢いはバンド活動。音楽雑誌PMのメンバー募集欄を見た彼女から、僕がギターを務めるバンドでボーカル希望との応募電話を架けて来たのが始まり。
当時は個人情報に関するセキュリティ意識など皆無に等しく、実名住所電話番号を思いっ切り載せていたので、すぐに連絡が取り合える便利さもあった。
僕の実家は都内目黒区の、オリンピック公園のすぐ近く。そして彼女……惠(めぐみ)さんは、玉川通りから環状線へ入った先のマンションに住んでいた。
当時の彼氏と……一緒に。
近所なので会いに来いと言うめぐみさん。素直にチャリで部屋へと向かった僕。
(着いた。ここか。しかし、いきなり呼び付けるって?)ピンポ~ン♪
「いらっしゃい」
「え?(わぁ、綺麗な人!)は……初めましてこんにちは! 改めて、薄川零(すすきがわれい)と申します!」
「どうぞ」
「あ、はい! お邪魔します!」
と……おお~! いきなりヴァイオレット・ムーンのパーマネント・ストレンジャーズのレコードジャケットが、壁掛け式カセットテープボックスのフタの部分に! これ、LPサイズを挿し込んで飾れるようになってるのか! かっけー!
ロックなインテリアに興奮して喜んでいる僕を見て、最初は割とぶっきら棒な口調だっためぐみさんも……
「気に入った? キミが来るんで、飾っておいたの」
と、優しく微笑んでくれた。
先ずは普通にメンバー面接。
「再結成ヴァイオレット・ムーン、いいよねぇ!」
「ハードロック、ヘヴィメタルなら他に誰が好き?」
「バンドではどんな音楽を演りたい?」
等々、結構意気投合。ひと通りお話も終わり、具体的にスタジオの予定も決めないままその日は帰ったのだった。
数日後、めぐみさんから電話。ギターをかついでチャリで向かう。バンドのもう少し具体的な打ち合わせができるかな?
「お邪魔しま~す」
「ギターなんか持って来たの?」
と言われて僕は「???」バンドメンバーとの打ち合わせなのに、持って来ちゃいけなかったのかな?
結局その日は打ち合わせらしい話もなく、めぐみさんはギタースタンドにあった彼氏のストラトキャスターを、僕は自分のレスポールを、お互いテキトーに弾きながらアドリブでジャムったり……めぐみさんが出してくれたお菓子を食べたりお茶を飲んだり。
また一歩仲良くなったものの、これじゃあバンマスとしてダメじゃないか。活動に進展が無い。
そこに彼氏のご帰宅。
「初めまして~、バンドの打ち合わせでお邪魔してま~す!」
特に疚しい事は無いものの、ギターは役に立ったようだった。
またある日、めぐみさんから電話。遊びに来いと。あのぉ……バンドの話はどうなったんですか?
しかしその日は、バンドよりも学業で事情あり。
「めぐみさん、ごめん。宿題が片付かないから、今日は遊べないよぉ」
「れいくんの宿題って、教科は?」
「英語は得意だからすぐ終わったけど、数学がわかんなくて。苦手でさ」
「だったらいらっしゃい!全部教えてあげるから」
? 高2の数学だぞ。教えるって? もしかして、勉強スゲィできるタイプのヒト?
とにかく宿題を片付けたい一心で、当然ギターは持たずにチャリで向かった。お蔭さまで、数学の宿題は助かった。
予感していた通りめぐみさんは、クラスに必ず一人居たりする、全教科パーフェクトな才女だったんだ。
「英語が得意と言ったトコで、どうせ教科書英語でしょ!」
その『教科書の英語』さえもわからない生徒が多い中で、僕は九十点以下をとったことないぞ!
なんて思ったが、彼女の言葉の背景となる事実が、後の……恋の展開の前提となるだなんて……。
その時の僕に、想像も出来るはずがなかったんだ。
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